2026年4月13日、住宅設備大手のTOTOが、システムバス・ユニットバスの新規受注を同日付で停止したことを明らかにしました。
原因は中東情勢の緊迫化によるホルムズ海峡周辺の通航制限が招いた「ナフサ不足」です。
再開の目途は現時点で立っておらず、LIXILも供給条件の調整可能性を表明するなど、業界全体に波紋が広がっています。
住宅の新築・リフォームを計画中の方にとって、無視できない事態となっています。
この記事では、なぜナフサ不足が浴室設備の受注停止につながるのか、断熱材・配管・塗料など住宅建材への広範な影響、そして今後の供給見通しを整理します。
なぜ住宅設備の受注が止まっているのか
TOTOの発表によると、受注停止の直接原因は「有機溶剤の不足」です。
有機溶剤は、ユニットバスの壁・床にフィルムを接着する接着剤や、人工大理石製の浴槽に施すコーティング剤に含まれる成分です。
この有機溶剤は石油由来のナフサを原料として製造されており、中東情勢の緊迫化によるホルムズ海峡周辺の通航制限が、調達環境を大きく悪化させています。
TOTOによれば、一部サプライヤーの調達・生産にすでに支障が生じており、在庫のめどが立たない段階で受注を継続することはできないと判断したとのことです。
なお、トイレなど衛生陶器については製造への影響はないとしており、今回の受注停止はあくまで浴室製品(システムバス・ユニットバス・トイレユニット)に限定されています。
ナフサ不足がユニットバスに直撃した理由

「なぜお風呂がナフサ不足で止まるのか」と疑問に思う方も多いでしょう。
ナフサはガソリンや灯油の「隣人」ともいえる石油留分ですが、その役割はまったく異なります。
ナフサは石油化学工場でエチレン・プロピレンなどの基礎化学品に分解され、プラスチック・合成樹脂・塗料・接着剤・有機溶剤の出発点となります。
つまり、住宅設備の製造には広範囲にわたってナフサ由来の素材が使われているのです。
ユニットバスに限定してみると、影響を受ける素材は以下のとおりです。
| 部位 | 使用素材 | ナフサとの関係 |
|---|---|---|
| 壁パネル(フィルム貼り) | 接着剤(有機溶剤系) | ナフサ→エチレン→酢酸エチルなど |
| 浴槽(人工大理石) | コーティング剤 | ナフサ由来の樹脂・溶剤 |
| 床材 | 樹脂系シート | ナフサ→プロピレン→ポリプロピレン |
| シーリング材 | 変成シリコン・アクリル系 | ナフサ由来の変性剤 |
これだけ多くの部材がナフサを起点としているため、供給が滞ると製品全体の組み立てが止まります。
TOTOの受注停止はその典型例と言えます。
日本のナフサ調達の脆弱な構造
当サイトの既存記事(「ナフサの輸入先はどこから?」)でも詳述していますが、日本は輸入ナフサの約74%を中東産に依存しており(2024年データ・石油化学工業協会)、ナフサには国家備蓄制度がありません。
民間在庫はわずか約20日分とされており、ホルムズ海峡周辺の通航制限が長引けば、即座に生産現場へ波及する構造になっています。

LIXILも影響を表明 業界全体に広がる不安
TOTOだけではありません。住宅設備のもう一つの大手、LIXILも2026年4月9日付で、中東情勢の緊迫化に伴い製品の供給条件を調整する可能性があると明らかにしています。
LIXILが想定している調整内容は以下のとおりです。
- 原材料・資材不足による生産・出荷・受注の調整や制限
- 原材料価格・資材価格・物流費の急激な上昇を受けた製品価格の改定
現時点ではLIXILは安定供給の維持に努めるとしていますが、企業努力の範囲を超える影響が生じる可能性があると明言しており、今後の情勢次第では制限が現実のものになる可能性があります。
TOTOが受注停止に踏み切ったことでLIXIL株も連れ安となっており、業界全体の調達環境が厳しいことを市場も織り込みつつあります。
他メーカーへの波及リスク
業界関係者の間では、パナソニック・クリナップなど他の浴室メーカーからも同様の発表が出る可能性が指摘されています。
TOTOとLIXILという二大ブランドが制約を受けた場合、残るメーカーへの注文が集中し、さらなる納期長期化につながるリスクがあります。
なお、タカラスタンダードはホーロー壁パネルを主力としており、フィルム貼りに使う接着剤を使用しない構造のため、今回のナフサ不足の影響が相対的に小さいとみられています。
ただし他メーカーからの乗り換え需要が集中した場合、タカラスタンダード製品も納期が延びる可能性は否定できません。
住宅設備全体への波及——お風呂だけで終わらない

今回のTOTO受注停止はユニットバスに限定されていますが、ナフサ不足の影響はすでに住宅設備の広い範囲に及んでいます。
実際の現場でも断熱材の盗難なども起きており、住宅・建築業界で大きな混乱が起こっている状況です。
断熱材
住宅の省エネ化に使われる押出法ポリスチレンフォーム(XPS)は、ナフサ由来のポリスチレンを原料とします。
カネカなどが2026年4月から大幅な値上げを実施しており、ZEH(ゼロ・エネルギー・ハウス)対応リフォームのコストにも影響が出始めています。
配管材
水道管・給湯配管・排水管に使われる塩化ビニル樹脂(PVC)もナフサ→エチレン由来です。
信越化学工業・積水化学工業などが2026年4月の納入分から値上げを実施しており、給湯器交換工事や配管リフォームのコストへの転嫁が懸念されます。
塗料・コーキング材
外壁塗装や水回りのシーリング工事に使われる塗料・コーキング材も、ナフサ由来の樹脂・溶剤を原料としています。
5月以降、主要塗料メーカーが10〜20%程度の値上げを予定しているとの情報があり、外装リフォームの見積もり単価も上昇傾向です。
今後の見通し——どのくらい待てば再開するのか
受注停止の再開時期について、TOTOは「現時点で目途が立っていない」としており、具体的な見通しは示されていません。
以下は、現時点の状況をもとにした、業界の見方を整理したものです。
あくまで予測の域を出るものではなく、実際の再開時期は中東情勢の推移に大きく左右されることをご承知おきください。
短期(4〜6月):供給は引き続き逼迫
国内のナフサ在庫は薄く、化学メーカー各社のエチレン設備の減産が本格化する5月以降、有機溶剤など下流製品の不足が深刻化する可能性があります。
この時期は受注停止の解除を期待することは難しいと見られています。
政府は国家石油備蓄の追加放出を決定していますが、原油からナフサを精製するにはタイムラグがあり、石油化学製品の末端価格に反映されるまでにはさらに時間がかかります。
中期(7〜12月):代替調達の進展次第で改善の余地
日本の石油化学メーカーは、米国・インド・東南アジアからのナフサ調達を模索しています。
米国産ナフサの輸出量は過去最高水準で推移しているとの情報がある一方、アジア各国が争奪戦を繰り広げており、価格の高止まりが続いています。
夏以降に調達が安定してくれば、段階的に供給が回復していく可能性があります。
ただし、再開後は積み上がった受注残の消化が優先されるため、「再開=すぐ納品」ではないことに注意が必要です。
コロナ禍での給湯器不足のときも、生産が再開してから実際に設置できるまで数か月待ちが続いた事例が多く報告されています。
過去の類似事例——東日本大震災・コロナ禍と比較
住宅設備の供給停止は過去にも発生しています。
| 事例 | 供給停止期間の目安 |
|---|---|
| 東日本大震災(2011年) | TOTOなど主要メーカーが一時出荷停止。数か月で段階的に回復 |
| コロナ禍の給湯器不足(2021〜2022年) | 部品調達難が長期化。一部機種で6か月〜1年待ち |
| 今回のナフサ不足(2026年) | 世界的なサプライチェーン問題。長期化する可能性も |
今回は国内単独の問題ではなく、アジア全体の化学産業が影響を受けているため、過去と比べても回復に時間がかかる可能性が高いと見る関係者もいます。
リフォーム・新築を計画中の方へ——今できることと注意点

受注停止という状況を受けて、住宅の新築やリフォームを計画中の方は、以下の点を頭に置いておくことをおすすめします。
① まず担当業者・ハウスメーカーに状況確認を
メーカーの在庫状況は日々変動しています。
すでに発注済みの案件は、既存の受注分として扱われる可能性がある一方、これから見積もりを取る段階の方は、担当業者を通じて現状の納期感を確認することが先決です。
② 代替メーカーへの切り替えを検討する
TOTOを予定していた場合、タカラスタンダード・クリナップなど影響が相対的に少ないとされるメーカーへの変更を施工業者と相談することも選択肢の一つです。
ただし、プランの変更には間取りや給排水位置の確認が必要なケースもあります。
③ 工期・工程に余裕を持ったスケジュール設定を
「着工月に設備が入れば間に合う」という読みは、現状では通用しない可能性があります。
給排水工事や内装工事との絡みで浴室の工程が遅延すると、建物全体の完成が後ろ倒しになるケースも想定されます。全体工程に余裕バッファを設けることを施工業者と相談してください。
④ 価格は今後も上昇方向とみておく
仮に供給が再開されても、ナフサ由来素材のコスト増が吸収しきれていなければ、再開後の製品価格は現行より高くなっている可能性があります。
「待てば安くなる」という状況にはなりにくいと考えておくほうが、資金計画の観点では安全です。
Q&A|よくある疑問に答えます
Q. 受注停止はいつまで続くのですか? A. TOTOは「現時点で再開の目途が立っていない」としており、再開時期は中東情勢の推移に左右されます。明確な見通しはまだ示されていません。
Q. トイレや洗面台は影響がありますか? A. TOTOの発表では、衛生陶器(トイレ本体)の製造には問題がないとしています。ただしトイレユニット(ユニット化された一体型トイレスペース)は受注停止の対象に含まれているため、担当業者への確認をおすすめします。洗面台については現時点でTOTOから個別の発表はありません。
Q. LIXILもすでに受注停止になっていますか? A. 2026年4月13日時点では、LIXILは「供給条件を調整する可能性がある」と表明しており、TOTOのような全面的な受注停止には至っていません。ただし今後の情勢によっては制限が実施される可能性があります。
Q. タカラスタンダードは大丈夫ですか? A. タカラスタンダードのホーロー壁パネルはフィルム接着剤を使用しない構造のため、今回のナフサ不足の影響を受けにくいとされています。ただし需要集中による納期延長が生じる可能性もあります。
Q. すでに見積もりをもらっている場合、価格は変わりますか? A. 見積もりの有効期限と受注確定のタイミングによります。資材価格の変動を理由に見積もり価格が変更される場合があります。施工業者に価格の有効期限と条件を確認することをおすすめします。
まとめ

- TOTOは2026年4月13日、システムバス・ユニットバスの新規受注を停止した
- 原因は中東情勢の緊迫化によるホルムズ海峡周辺の通航制限が招いた、有機溶剤(ナフサ由来)の不足
- LIXILも供給条件の調整可能性を表明しており、業界全体の調達環境は厳しい状況が続いている
- 他メーカーへの波及も懸念され、再開後も積み上がった受注残の消化で納期が長期化する可能性がある
- 断熱材・配管材・塗料など関連素材も軒並み値上がり方向にあり、リフォーム・新築全体のコスト上昇は避けられない
- 計画中の方は担当業者への早期確認・代替メーカーの検討・工程バッファの確保が重要
今回の受注停止は「一企業の一時的なトラブル」ではなく、日本の石油化学産業が抱える中東依存という構造問題が住宅設備の現場に噴出した事象と言えます。
状況は今後も変わりうるため、信頼できる施工業者と密に連絡を取りながら、柔軟な対応策を準備しておくことが大切といえるでしょう。

