家庭のガス代が思った以上に増えてしまう理由のひとつが「給湯」です。
お風呂やシャワー、台所で使うお湯は毎日の積み重ねが大きく、家庭全体のエネルギー消費の中でも無視できない割合を占めています。
資源エネルギー庁の調査でも、給湯は家庭エネルギーの約30%とされており、どんな給湯器を使うかで年間のガス使用量に確かな違いが生まれます。
(出典:経済産業省資源エネルギー庁 令和5年度補正 省エネ化支援事業より)
その中で近年主流になりつつあるのが潜熱回収型給湯器 (=エコジョーズ)です。
従来型では外に逃げていた高温の排気ガスから“もう一度熱を取り戻す”構造を持ち、給水を事前に温めることで効率を大きく引き上げます。
熱効率は従来型の約80に対し、潜熱回収型は約93〜95%が一般的。
湯量が多い家庭では、年間のガス使用量に10%以上の差がそのまま現れることも珍しくありません。
この記事では、潜熱回収型がなぜ高効率なのか、どれくらい数字で変わるのか、従来型と何が違うのかを分かりやすく整理し、具体的なメリットや注意点までを網羅的に解説します。
初めて給湯器を選ぶ家庭でも判断しやすいよう、仕組み・違い・実際の体感を数字と構造の両面からまとめていますので、潜熱回収型給湯器とはどういうものなのか?
また導入を検討している方も含めてぜひご参考ください。
潜熱回収型給湯器の熱効率が高い理由と従来型との数値比較

潜熱回収型給湯器は、燃焼時に発生する排気ガスに含まれる「水蒸気の潜熱」を回収して再利用する仕組みを持っています。
排気を冷却することで凝縮水(ドレン水)が発生しますが、その過程で約150℃前後の排気熱を給水の予熱に利用します。
これにより、主熱交換器で追加加熱する量が減り、結果的に使用ガス量も抑えられます。
📊 熱効率の具体的な比較(給湯運転時)
| 種類 | 代表的な熱効率 | 排気温度の目安 |
|---|---|---|
| 従来型給湯器 | 約80% | 200℃前後 |
| 潜熱回収型給湯器 | 約93〜95% | 50℃前後 |
※数値はメーカー公表値の一般的な範囲
この効率差は「約10%以上」の開きがあり、給湯量の多い家庭では月間・年間で実感できるレベルになります。
🧩 実際にどれくらいガス量が変わるのか
効率差10%以上をそのまま使用量に当てはめると、以下のような違いが生まれます。
◎ 給湯を毎日使う家庭(4人家族の平均的湯量)
- 1日の給湯使用量の例:
シャワー ×2人(約50L×2)
入浴(給湯風呂)150L
洗面・台所で約50L
合計:300L前後/日
この湯量を従来型と潜熱回収型で比較すると…
- 従来型:ガスを100%使う前提
- 潜熱回収型:同じ湯量で約90%前後のガス使用量になる
つまり、
差し引き 約10%分のガス使用量が削減できる計算。
月あたりに換算すると、
- 従来型の月間給湯ガス使用量:仮に40㎥
- 潜熱回収型なら:約36㎥前後
→ 約4㎥の差(10%)
数字としては小さく見えますが、年間では48㎥の差となり、給湯量が増える冬季はさらに開きが出やすくなります。

(出典:リンナイ公式HPより リンナイのエコジョーズが選ばれる理由)
💡 熱効率の差が「体感差」につながる理由
- 給湯量が多い家庭ほど、効率差がそのままガス量の差として累積する
- 追い焚き回数が多い家庭では潜熱回収の恩恵がさらに大きい
- シャワー時間が長い家庭(1人10〜15分)は燃焼時間も長く差が出やすい
- 大家族・共働き・夕方の連続入浴など使用パターンでも差が拡大する
潜熱回収型は「ガスの使い方がそのまま差に現れる」タイプの高効率給湯器といえます。
🔁 要点整理
- 熱効率は 従来型:約80% → 潜熱回収型:約93〜95%
- 排気の熱(150℃前後)を給水の予熱に再利用する構造
- 実質的に 約10%以上の使用ガス量を抑えやすい
- 湯量の多い家庭ほど効果が大きく、追い焚きやシャワー中心家庭で実感しやすい
- ドレン排水が発生するため、設置場所に排水ルートが必要
従来型と比較したメリット・デメリット

潜熱回収型給湯器は熱効率が高いぶん、家庭で得られる実感メリットもはっきりしています。
同時に、構造上どうしても避けられない注意点もあります。
従来型と比較しながら、購入前に押さえるべき点を具体的に整理します。
給湯器選びは「効率だけ見ればよい」という単純な話ではなく、家庭環境・設置条件・生活スタイルによって向き不向きがあります。
そのため、メリットとデメリットを数値を交えて把握しておくことで、後悔なく選択しやすくなるといえるでしょう。
潜熱回収型のメリット
◎ 熱効率が約10%以上高い
従来型の80%に対し、潜熱回収型は93~95%前後が一般的。
効率差は 約10〜15%ポイント。
湯量の多い家庭(4人家族など)では、
・従来型:月40㎥前後
・潜熱回収型:月36㎥前後
といった差になり、年間では40~60㎥の差に達することがあります。
◎ 排気温度が低く、住宅環境にやさしい
従来型は排気温度が200℃前後、潜熱回収型は50〜80℃程度。
外壁・周囲環境への熱負担が少なく、マンション等でも採用しやすい要因のひとつです。
◎ 湯切れしにくい体感
熱交換効率が高いため、同じガス量でも湯量に余裕が出やすい傾向があります。
とくに「連続入浴」「シャワーが長い家庭」で違いが出やすいポイント。
★比較表
| 比較項目 | 従来型給湯器 | 潜熱回収型給湯器 |
|---|---|---|
| 熱効率 | 約80% | 約93〜95% |
| 排気温度 | 200℃前後 | 50℃前後 |
| ガス使用量 | 多め | 約10%以上カット期待 |
| 連続使用の安定性 | やや弱い | 安定しやすい |
| ドレン排水 | なし | あり(排水必須) |
潜熱回収型のデメリット
△ 設置場所に排水ルートが必要
潜熱回収型は排気を冷やす過程で凝縮水(ドレン)が発生します。
家庭用の場合、1日あたり 数百ml〜1L前後 出ることもあり、
排水ルートの確保が必須となります。
・屋外設置 → 地面への自然排水OKな場合も
・屋内設置 → 排水管へ接続が必要
・スペースが狭い住宅 → 排水経路の確保に工夫が必要
従来型にはない“新しい要件”のため、ここがネックとなる家庭は一定数あります。
△ 本体価格が高い
機種にもよりますが、潜熱回収型は従来型より
3〜5万円前後高いのが一般的。(給湯専用タイプ)
ただし「年間のガス差約40〜60㎥」という数字を考えると、
家計的には数年で十分に元が取れるケースが多いです。
△ メンテナンスでドレン周りの確認が必要
排水ホースの詰まり、水抜き穴の汚れなど、
従来型にはない点検項目が追加されています。
設備トラブルとして多いわけではありませんが、
使い方次第ではドレン詰まりが効率低下の原因になることがあります。
💡 メリットとデメリットから分かる「向いている家庭」
- 湯量が多い(4人以上の家庭)
- 追い焚き・シャワーの使用時間が長い
- 給湯器の設置場所に排水ルートが確保できる
- 月間ガス使用量が30〜50㎥以上の家庭
逆に、以下は従来型でも問題が少ない傾向。
- 使用湯量が非常に少ない
- 給湯器の設置場所に排水がどうしても確保できない
- イニシャルコスト最優先で選びたい
潜熱回収型の仕組みを理解するための内部構造

潜熱回収型給湯器は、排気ガスの中に含まれる“水蒸気の熱”まで回収し、給水の予熱に活用することで効率を上げています。
この構造を理解すると、なぜ熱効率が93〜95%まで高められるのか、その根拠が明確になります。
従来型との違いは「熱交換器が1つか2つか」という単純な話ではなく、排気の温度をどこまで下げられるか、そこにある熱をどのように回収して給水に渡すかにあります。
j給湯時のガス使用量が約10%以上変わる理由を、内部構造の視点から整理していきましょう。
二次熱交換器が“潜熱”を取り出す心臓部
潜熱回収型では、主熱交換器(一次側)とは別に 二次熱交換器(潜熱交換器) が搭載されています。
この部分で排気ガスを一気に冷却し、排気中の水蒸気が凝縮する際に発生する“潜熱”を回収します。
◎ 排気温度の変化
- 従来型:200℃前後 → そのまま屋外へ排出
- 潜熱回収型:150℃前後 → 50〜80℃前後まで急冷
この差がそのまま熱効率の差につながります。
潜熱回収が数字でわかる簡易モデル
たとえば、給湯器が1分間に約10〜15kW(機種による)の燃焼を行っているとします。
従来型はそのうち 約20%前後の熱を排気として捨てている のに対し、
潜熱回収型は排気から 約10〜12%前後の熱を“取り戻す” ため、
最終的に熱として使える割合が 約93〜95%へ上がる という仕組みです。
排気を冷やすことで発生するドレン水
排気を急冷すると、排気中の水蒸気が凝縮し、
家庭用では 1日あたり数百ml〜1L前後 のドレン水になります。
◎ドレンの役割
- 回収した熱が確実に水側に伝わっている証拠
- 高効率化の結果として必ず発生する
- 排水ルートの確保が潜熱回収型の前提条件になる
従来型にドレンがないのは、排気を冷やさずにそのまま放出するためです。
ここが構造上の大きな分岐点となります。
主熱交換器で“仕上げ加熱”する流れ
潜熱交換器で予熱された水は、主熱交換器へ送られ、
設定温度(40〜60℃など)まで仕上げ加熱されます。
このとき主熱交換器の負担が軽くなるため、
燃焼時間が短く済み、ガス使用量も抑えられます。
🔍 内部構造をまとめた流れ
- 燃焼 → 高温の排気ガス発生
- 二次熱交換器で排気を急冷
- 排気中の水蒸気が凝縮し、“潜熱”を取り出す
- 給水を予熱(約20〜30℃程度の前処理)
- 主熱交換器で設定温度まで加熱
- 排気は低温化して排出(約50〜80℃)
- 凝縮水(ドレン)を排水
💡 家庭で見える形にするとこうなる
- 従来型が湯量の多い家庭で“ガス代が重くなりやすい”のは、排気に熱を逃がしているため
- 潜熱回収型は排気の熱を再利用するため、“同じ湯量でも燃焼量を減らせる”
- ドレン水が出るのは故障ではなく、効率が高い証拠
設置環境で変わる注意点(ドレン処理・排気位置・寒冷地での使用)

潜熱回収型給湯器は“高効率であること”が最大の特徴ですが、同時に従来型にはなかった設置条件が発生します。
とくに重要なのがドレン排水の確保と排気位置の調整、そして寒冷地における凍結対策です。
ここを理解せずに選ぶと、せっかくの高効率機器が本来の性能を発揮できなかったり、施工時に追加工事が必要になったりするケースがあります。
家庭の環境に合わせてどう判断すべきかを整理します。
ドレン排水は潜熱回収型の必須条件
潜熱回収型は排気を急冷する構造のため、
1日で数百ml〜1L前後のドレン水が発生します。
(給湯頻度が高い家庭ほど多くなる)
◎ ドレン排水のポイント
- 地面へ自然排水できる場所なら工事が簡易
- 屋内設置やコンクリート床は排水管への接続が必要
- ドレン配管はなるべく短く、勾配を確保することが望ましい
- 排水口が遠い場合、延長配管で追加工事が必要なこともある
従来型では不要だった設備なので、「排水できる場所があるかどうか」が最初の判断材料になります。
排気位置の注意(低温排気だが無視はできない)
潜熱回収型は排気温度が50〜80℃前後と従来型の1/3以下に下がります。
そのため、外壁や周囲環境への熱影響は小さいのですが、
- 隣家との距離
- 換気口の位置
- ベランダや庭の動線
などは必ず確認する必要があります。
◎ 排気温度の違い
- 従来型:200℃前後
- 潜熱回収型:50℃前後
→ ただし、低温でも湯気(白煙)が出やすい時期がある
特に冬場は外気温との差で湯気が強く見えることがあり、
隣接住宅との距離が近い場合は事前に排気方向を調整することが望ましいです。
寒冷地での注意点(ドレン凍結・配管勾配)
寒冷地では「ドレンの凍結」が最重要ポイントです。
気温が低い地域では、排水管内の残水が凍結しやすく、逆流したドレンが機器内部に戻るとエラーや故障につながる場合があります。
◎ 寒冷地で必要な対策
- ドレン配管をできるだけ短くする
- 屋外配管は凍結防止の断熱材を巻く
- 勾配を確保し、水がたまりにくいルートにする
- 高低差の激しい配管は避ける
- 排水先が凍結しにくい“日当たりの良い位置”を選ぶ
寒冷地では、潜熱回収型の設置経験がある施工業者を選ぶことが安心につながります。
🔍 設置環境に応じた判断の目安
- 排水ルートが容易に確保できる → 相性◎
- 屋内設置で排水経路が遠い → 工事が複雑化しやすい
- 極寒地域 → ドレン対策が必須
- ベランダ設置 → 排気方向・水はねの確認が必要
潜熱回収型は高効率でメリットが大きい一方、
「どこでも簡単に付く給湯器ではない」という点だけ押さえておくと失敗を防げます。
潜熱回収型給湯器の種類と選び方(号数・方式・家族構成の目安)

潜熱回収型給湯器といっても、メーカーや方式によって細かな特徴が異なります。
選び方を間違えると、熱効率が高いにもかかわらず「お湯が足りない」「追い焚きが遅い」「同時使用で温度が安定しない」といった不満につながります。
ここでは、家庭で最も重要となる号数の選び方、追い焚き機能の種類、そして家族構成ごとの適正サイズを数字を交えて整理していきましょう。
給湯器選びで最も重要なのは「号数」
号数は給湯能力を示し、
1分間に何リットルの水を25℃上昇させられるか を表します。
|号数|1分間に出せるお湯の量(目安)|
|—|——————————|
|16号|約16L/分|
|20号|約20L/分|
|24号|約24L/分|
◎ 号数選びの目安
- 一人暮らし・シャワー中心:16号
- 2〜3人・シャワー+台所:20号
- 4人以上・浴槽への給湯・同時使用多め:24号
家庭で最も不満が出やすいのは「お湯が細い」「温度が安定しない」という部分で、これは熱効率とは関係なく号数が足りていないケースがほとんどです。
追い焚き方式は「フルオート」か「オート」
潜熱回収型でも、浴槽まわりの機能は主に次の2つ。
・フルオート
自動保温・自動たし湯・配管自動洗浄がセット
・オート
自動たし湯なし、シンプル機能
◎ 使い方の違い
- 追い焚き時間が多い家庭 → フルオート推奨
- コストを抑えたい → オートでも十分
機能の違いは給湯効率には影響しないものの、使用感に大きく関わります。
方式の種類(給湯専用・給湯暖房・風呂給湯)
潜熱回収型には、家庭の暖房方式に応じて3つのラインナップがあります。
① 風呂給湯タイプ(一般的な給湯+追い焚き)
最も家庭で多いタイプ。
シャワー・台所・浴槽が一台でまかなえる。
② 給湯専用タイプ(追い焚きなし)
浴槽に追い焚きできないシンプルモデル。
コストは安いが、浴槽利用の多い家庭には不向き。
③ 給湯暖房タイプ(床暖房・暖房機器へ温水供給)
床暖房や浴室暖房乾燥などの温水暖房を同時に使う家庭向け。
暖房負荷が大きいため、24号以上が推奨。
家族構成ごとの“最適モデル”の目安(潜熱回収型の場合)
以下は、家庭内の平均的な使用量をもとにした現実的な目安です。
| 家族構成 | 使用イメージ | 推奨号数 | 機能の目安 |
|---|---|---|---|
| 1人暮らし | シャワー中心、浴槽あまり使わない | 16号 | 給湯専用 or オート |
| 2〜3人 | シャワー+台所、たまに浴槽 | 20号 | オート or フルオート |
| 4人以上 | 浴槽+シャワー連続、台所同時使用 | 24号 | フルオート推奨 |
| 暖房あり | 床暖房・浴室乾燥併用 | 24号以上 | 給湯暖房タイプ |
💡 選び方を一言でまとめると
- 号数が足りないと、潜熱回収型でも“湯量不足”は避けられない
- 家族の人数と生活パターンを基準に選ぶのが最も確実
- 床暖房などの温水暖房がある家庭は給湯暖房タイプ一択
- 追い焚きが多い家庭はフルオートで使い勝手が向上
高効率機器であることに加えて、生活に合わせたサイズ・方式を選ぶことで満足度が大きく変わります。
故障リスクとメンテナンスの違い

潜熱回収型給湯器は「高効率」という大きなメリットを持つ一方で、従来型とは構造が異なるため、故障の傾向やメンテナンスの考え方にも違いがあります。
誤解されがちですが、潜熱回収型だから故障しやすいということはありません。
ただし、ドレン排水(凝縮水)を扱う構造上、“注意すべきポイントが1つ増える”という事実は理解しておく必要があります。
ここでは、家庭で起きやすいトラブルと、そのメンテナンス視点を具体的に整理します。
ドレン詰まりは潜熱回収型特有のトラブル
潜熱回収型の構造上、排気を急冷することで発生するドレン水を排水する必要があります。
1日に 数百ml〜1L前後 のドレンが出るため、排水経路が詰まると正常に排水できず、エラー停止の原因 になることがあります。
◎ ドレンまわりで起きやすい現象
- 排水ホース内にゴミ・砂・虫が入り込む
- 排水先の雨水桝に汚れが溜まって逆流する
- 勾配が足りず水が滞留
- 屋外配管が凍結し、排水が止まる(寒冷地)
✔ 家庭でできる予防
- 排水ルートが土や落ち葉で塞がっていないか確認
- 雨水桝(ます)に溜まった汚泥を定期的に除去
- 屋外に露出している配管は断熱材で保護
ドレン詰まりは“構造上避けられない性質”であり、
潜熱回収型を使う家庭ではここを理解しておくと安心です。
熱交換器の汚れや劣化は従来型と共通
主熱交換器(二次ではない)が長年使用するうちに劣化するのは、潜熱回収型・従来型どちらも同じです。
劣化が進むと
- 温度が安定しない
- 追い焚きが遅い
- 立ち上がりに時間がかかる
といった症状につながります。
◎ 寿命の目安
- 一般的な給湯器:約10年
- 潜熱回収型もほぼ同じ寿命帯
(熱交換器や電子部品の寿命が共通のため)
「潜熱回収型だから寿命が短い」ということはなく、
寿命に関しては両者に大差はありません。
寒冷地で増える“凍結トラブル”
潜熱回収型は、排気を冷やすことでドレンが発生します。
寒冷地では、このドレン配管が凍結するリスクが高く、
凍結 → 水が流れない → 逆流 → エラー
という流れになることがあります。
◎ 寒冷地の予防策
- ドレン配管に断熱材を巻く
- 日陰を避け、なるべく短い経路を確保
- 水が落ち切るように勾配を強めにする
凍結は施工品質が影響しやすく、
寒冷地で経験豊富な業者を選ぶことが重要です。
電装系のトラブルは従来型と同等
潜熱回収型だから電装系が弱いということはありません。
- 基盤(基板)
- センサー類
- ファンモーター
- 点火器
などの電装部品は、どちらの給湯器にも共通しています。
電装の故障は使用環境(湿気・雨・外気温)や経年劣化の影響が大きく、
潜熱回収型だけが壊れやすいというデータはありません。
🔁 故障・メンテナンス面を整理すると
- 潜熱回収型特有:ドレン排水の詰まり・凍結
- 共通:熱交換器の劣化・電装系の故障は従来型と同じ
- 寿命は 10年程度が一般的
- 施工品質が性能と耐久性に大きく影響
- ドレン部分だけ“注意点が1つ増える”という理解で十分
潜熱回収型を選ぶべき家庭と、従来型で十分な家庭

潜熱回収型は「すべての家庭に最適」というわけではありません。
熱効率は確かに高いものの、家庭の湯量・設置環境・生活パターンによって向き不向きがはっきり分かれます。
ここでは、数字・使用状況をもとに最適な判断ができるよう、両者を比較しながら整理していきましょう。
潜熱回収型を選ぶべき家庭
◎ 4人以上の家庭(湯量が多い)
4人家族の場合、
- 1日あたり 300〜350L
- 1か月の給湯ガス量 35〜45m³
ここに 約10%の差 がそのまま効いてくるため、
年間では 40〜60m³のガス差 となることが多いです。
湯量が多い家庭ほど「効率=節約」に直結します。
◎ 毎日浴槽を使い、追い焚きが多い家庭
追い焚きは機器の燃焼時間が長くなるため、
- 従来型:排気の熱をそのまま捨てる
- 潜熱回収型:排気の熱も予熱に活かす
という構造差が大きく表れます。
浴槽を毎日使う家庭では、
追い焚き1回で数%のガス差 が積み重なるため相性抜群です。
◎ シャワー時間が長い家庭
シャワーは1分あたり 約10〜12L 使用します。
10分シャワーで100〜120L。
家族3人が連続で入ると
300〜360L の給湯が発生し、熱効率差の影響が大きくなります。
シャワー中心の生活でも、湯量が多い家庭は潜熱回収型が有利です。
◎ ガス単価が比較的高い地域
同じ10%削減でも、
ガス単価の高い地域ほど節約額が大きくなります。
効率差で恩恵を最大化しやすい環境です。
◎ 設置場所に排水ルートが確保できる
潜熱回収型の絶対条件である「ドレン排水」が確保できる家庭は、
性能を十分発揮できます。
従来型で十分な家庭
△ 使用湯量がかなり少ない(単身・シャワー数分のみ)
1日100L程度、
月20m³以下のガス使用量であれば、
潜熱回収型との年間差は 20〜30m³程度 となり、
本体価格差の回収に時間がかかります。
湯量が極端に少ない家庭では、従来型でも十分です。
△ 排水ルートの確保が難しい家
室内設置・ベランダ設置などで排水経路が確保できない場合は、
潜熱回収型は避けたほうが無難です。
「無理に工事すると逆にリスク」になるケース。
△ 賃貸物件で設備投資を最小限にしたい場合
本体価格の差(1〜3万円)がネックになる場合、
従来型のほうが初期費用を抑えられます。
△ ほぼシャワーのみで浴槽をほとんど使わない
シャワー時間が短く、湯量も少ない場合、
効率差が体感にはほとんど影響しません。
🔁 選び方のまとめ
- 湯量が多い家庭 → 潜熱回収型一択
- 排水が取れない家・湯量が極端に少ない家 → 従来型で十分
- 号数や方式を間違えると効率以前に使い勝手が悪くなる
- 生活パターンの“湯量”が最重要判断材料
熱効率の差は設計思想による確かな違いであり、湯量の多い家庭ではそのメリットが確実に積み重なります。
潜熱回収型給湯器に関するよくある誤解と正しい理解
潜熱回収型給湯器は普及が進んでいる一方で、従来型との構造の違いから、誤解や偏った情報も多く見られます。
とくに「故障しやすい」「凍結に弱い」「ランニングコストが本当に安くなるのか」など、ネット上で曖昧なまま語られるケースが少なくありません。
ここでは、現場で実際に起こりやすい事例とデータをもとに、誤解されやすいポイントをひとつずつ丁寧に整理します。
誤解①:潜熱回収型は“故障しやすい”という噂
最も多い誤解がこれですが、結論として 潜熱回収型だから故障しやすいわけではありません。
故障率に影響する要因は
- 使用年数
- 設置環境
- 湿気・雨・外気の影響
- 電装部品の劣化
などで、従来型とほぼ同じです。
◎ 誤解が広がった理由
潜熱回収型には「ドレン排水」という新しい構造があり、
この排水まわりが詰まったり凍結したりするとエラーが出やすい のが原因。
これは故障ではなく、
機器を守るために停止する“安全動作”です。
◎ 正しい理解
- 潜熱回収型 → ドレン対策が必要
- 従来型 → ドレンがない
構造の違いによる誤解であり、耐久性そのものに差はありません。
誤解②:ドレンが出るのは“異常”と思われがち
排水が出ることに驚く家庭も多いですが、
潜熱回収型では ドレンが出るのは100%正常動作 です。
排気の熱を回収する際の“副産物”であり、
ドレンが出ているということは、
効率が高い=熱をしっかり回収できている 証拠でもあります。
◎ ドレンの量の目安
- 家庭用:数百ml〜1L/日
- 使用湯量の多い日:もう少し増えることもある
異常ではないため、排水自体を心配する必要はありません。
誤解③:潜熱回収型は“寒冷地には不向き”
寒冷地では凍結が懸念されるため、
「不向きなのでは?」という誤解があります。
実際には 潜熱回収型は寒冷地でも問題なく使用できます。
ただし、
- ドレン配管の断熱
- 勾配の確保
- 排水先の凍結対策
など、施工側の技術が重要になります。
◎ 寒冷地が誤解されやすい理由
凍結すると排水が止まり、
→ 逆流
→ 機器内部で検知
→ エラー停止
という流れが起きやすいため。
これは「不向き」ではなく、
設置時の施工品質が性能を左右する設備 というだけです。
誤解④:節約効果は“ほとんどない”
これもよく見られますが、
潜熱回収型は 構造上、確実に約10%前後の効率差 が生まれます。
ただし、この体感は家庭によって大きく変わります。
◎ 節約効果が大きい家庭
- 湯量が多い(300L/日前後)
- シャワー時間が長い
- 追い焚き頻度が高い
- 4人以上
- 在宅時間が長く給湯量が多い
◎ 効果が小さい家庭
- シャワー数分で終了
- 浴槽はほぼ使わない
- 単身で湯量が少ない
湯量が増えれば増えるほど、
熱効率差のメリットがそのまま数字として積み上がります。
誤解⑤:本体価格が高い=損をする
潜熱回収型は従来型より
本体が3〜5万円ほど高い のが一般的です。
しかし、
年間で 40〜60m³ の使用量差があれば、
高効率差は数年で回収可能です。
◎ 「損をする家庭」とは?
- 使用湯量が少なすぎる(単身・シャワーだけ)
- 月間ガス使用量が20m³以下
この場合は回収に時間がかかるため、従来型のほうが合理的です。
🔁 誤解と正しい理解の整理
- 故障しやすい → ×
ドレンまわりだけ注意点が増えるだけ - ドレンは異常 → ×
正常動作であり効率が高い証拠 - 寒冷地に弱い → ×
施工品質が重要なだけ - 節約効果がない → ×
湯量が多い家庭では年間40〜60m³の差 - 本体が高いのは損 → ×
湯量の多い家庭では十分に回収可能
潜熱回収型給湯器の設置で失敗しないためのチェックポイント

潜熱回収型給湯器は性能が高い反面、従来型にはない“設置条件のハードル” が存在します。
ここを事前に確認しないまま購入すると、「排水が取れず設置できない」「配管工事が追加で高額になった」「湯量は十分なのに使い勝手が悪い」といったトラブルにつながりやすくなります。
とくに潜熱回収型は“排水”と“設置場所の制約”が要点になるため、導入前に以下の項目を必ずチェックしておくと安心です。
ドレン排水ルートは確保できるか(最重要)
潜熱回収型は排気の熱を回収する際に
1日あたり数百ml〜1L前後のドレン水 を排出します。
排水できない場合は設置できないため、
最優先で確認すべき項目 です。
◎ チェックするポイント
- 排水口が近くにあるか
- 勾配(ななめの傾き)が確保できるか
- 排水ホースが長くなりすぎないか
- 屋外なら地面へ自然排水できるか
- ベランダ設置の場合、排水先が確保できるか
排水ルートに無理があると「逆流 → エラー停止」の原因になるため、
ここだけは妥協せず確認する必要があります。
設置場所の周囲スペースは十分か
給湯器の種類に関係なく必要な項目ですが、
潜熱回収型は排気方向やドレン配管の取り回しにより、
従来型よりスペースが必要になる場合があります。
◎ チェックポイント
- 給湯器の前後左右にメンテナンススペースを確保できる
- 隣家の窓・換気口に排気が向かない
- 配管が通るスペースが十分にある
- 屋外壁掛けの場合、高さ・強度が足りる
とくに排気口の向きは、実際の生活動線(洗濯物・通路)まで視野に入れると失敗しません。
寒冷地ではドレン凍結のリスクを確認
寒冷地では、施工の良し悪しによりドレン凍結のリスクが大きく変わります。
◎ チェックしたい項目
- ドレン配管が日陰に通っていないか
- 地面に水が溜まる場所に排水されないか
- 配管に断熱材を巻けるスペースがあるか
- なるべく短距離で排水できるか
凍結は「施工の設計」で8割が決まります。
寒冷地では潜熱回収型の施工経験豊富な業者を選ぶのが最重要です。
家族人数に合った「号数」を選んでいるか
潜熱回収型は効率が高いからといって、
号数が足りていないと湯量不足を感じることがあります。
◎ 号数選びの基準
- 1〜2人:16〜20号
- 3〜4人:20〜24号
- 4人以上・浴槽+シャワー多め:24号必須
- 床暖房あり:24号+暖房タイプ
「熱効率」よりもまず「号数」が正しくないと、
どんな機種でも不満が残ります。
追い焚きの使用頻度は高いか(機能選択の影響)
潜熱回収型はフルオート・オートが選べますが、
家庭の使用環境に合わせて選ばないと後悔しやすいポイントです。
◎ フルオートが必要な家庭
- 追い焚き毎日
- たし湯の手動が面倒
- 家族がバラバラの時間で入浴
→ 自動保温・自動たし湯の恩恵が大きい
◎ オートで十分な家庭
- 浴槽をあまり使わない
- シャワー中心
- 初期費用をできるだけ抑えたい
ここを誤ると「せっかくの高効率なのに使い勝手が悪い」という状況になりやすいです。
給湯器まわりの既存配管の状態を確認
古い住宅や既存配管に問題がある場合、
潜熱回収型でも本来の性能が発揮されません。
◎ チェックしたい項目
- 給水・給湯管が古く劣化していないか
- ガス配管が現行基準で施工されているか
- 配管距離が長すぎて立ち上がりが遅くないか
- 室内配管や隠蔽配管に問題がないか
施工前の現地調査でここを丁寧に見てもらうことで、
設置後のトラブルを大幅に防げます。
🔁 失敗しない判断基準まとめ
- ドレン排水が取れるかが最優先
- 設置スペースと排気方向を必ずチェック
- 寒冷地は施工品質が性能を左右する
- 湯量に合った号数を選ぶのが最重要
- フルオート・オートは生活パターンで判断
- 既存配管の状態を確認しておくと安心
潜熱回収型は“メリットが確実に積み上がる”給湯器ですが、
このチェック項目を押さえることで設置後の満足度が大きく変わります。
潜熱回収型給湯器に関するFAQ
Q1. 潜熱回収型は本当にガス使用量が減るのですか?
はい。構造的に 約10%前後 ガス使用量を抑えられます。
従来型の給湯効率が約80%なのに対し、潜熱回収型は約93〜95%前後。
4人家族で湯量の多い家庭では、年間40〜60m³前後の削減 になるケースが多く、湯量が多い家庭ほど効果がはっきり出やすい仕組みです。
Q2. ドレン(排水)が出るのは故障ではありませんか?
ドレン排水は 100%正常動作 です。
潜熱回収型は排気を冷やして熱を回収するため、その過程で発生する水分がドレンとして排出されます。家庭用で出る量の目安は1日あたり数百ml〜1L前後。これが出ているということは、効率が正しく発揮されている証拠です。
Q3. 寒冷地では凍結して使えないと聞いたのですが?
寒冷地でも問題なく使えます。
ただし ドレン配管の凍結対策が必須 であり、施工品質が重要になります。
- 配管に断熱材を巻く
- 勾配を強くして水が残らないルートにする
- 排水先が凍結しにくい場所を選ぶ
これらを満たせば、寒冷地でも安定して運転できます。「寒冷地に不向き」というのは誤解で、実際は適切な施工ができる業者かどうかが分かれ目 です。
Q4. 潜熱回収型は従来型より故障が多いのでは?
故障率そのものに大きな差はありません。違いがあるのは “故障原因になり得る点” です。
潜熱回収型はドレン排水を扱うため、
- 詰まり
- 逆流
- 凍結
などが起きるとエラーになりやすいのですが、これは機器を守るための 安全停止 であり、“壊れやすい” とは別問題です。
熱交換器・基板・センサー類の寿命は従来型と同じく10年が一般的 です。
Q5. 購入費が高いけど、本当に元が取れますか?
湯量が多い家庭なら回収できます。
本体価格は従来型より 3〜5万円前後高い のが一般的ですが、
- 4人以上の家庭
- 毎日浴槽を使用
- シャワー時間が長い
- 追い焚きが多い
こういった家庭では年間40〜60m³前後のガス差が出るため、数年で回収できるケースが多い のが実際です。
逆に使用湯量が極端に少ない家庭(単身・シャワー数分のみ)では、従来型でも十分です。
まとめ:湯量が多い家庭は潜熱回収型給湯器がおすすめ

潜熱回収型給湯器は、排気に含まれる熱(潜熱)をもう一度利用する仕組みによって、従来型より 約10%前後熱効率が上がる高性能な給湯器です。
とくに湯量が多い家庭では、年間40〜60m³のガス差になることもあり、ランニングコストの面で大きなメリットがあります。
一方で、従来型にはなかったドレン排水/凍結対策/排水ルート確保 といった設置条件があり、施工品質が性能を左右しやすい点は押さえておく必要があります。
ただし、これらの条件さえクリアできれば、
- 家計負担の軽減
- 使い勝手の安定
- 将来のエネルギー効率性への備え
といった面で非常に優秀な選択肢になります。
高効率化によるメリットが確実に積み重なる機器であり、家庭の湯量と設置環境に合った選び方をすることで、長く快適に使える給湯器として力を発揮するでしょう。



