「いつも使っている化粧水や乳液が値上がりするかもしれない」——そんな話を耳にして、不安を感じている方も多いのではないでしょうか。
2026年春、中東情勢の緊迫化によってホルムズ海峡が事実上の封鎖状態となり、日本のナフサ調達に深刻な支障が生じています。
ガソリンや灯油の値上がりはすでに家計に影響していますが、スキンケア用品やメイクアップ用品といった化粧品にも同じ波が押し寄せています。
この記事では、なぜナフサ不足が化粧品の値上がりにつながるのか、その仕組みと具体的な影響を、化粧品の「中身の成分」と「容器・パッケージ」の両面からわかりやすく解説します。
ナフサとは何か?化粧品との関係を理解するために

ナフサは石油化学の”起点”
ナフサ(Naphtha)とは、原油を精製する過程で得られる軽質の石油留分の一種です。
ガソリンや灯油と同じ精製ラインから生まれますが、役割はまったく異なります。ガソリン・灯油が「燃料」として使われるのに対し、ナフサは石油化学工場に送られ、高温分解処理によってエチレン・プロピレン・ブタジエン・ベンゼン・トルエン・キシレンなどの「基礎化学品」を生み出します。
これらの基礎化学品が、さらに加工されてプラスチック・合成繊維・洗剤・化粧品原料・シリコーンなどへと変わっていきます。
つまり、ナフサは「石油化学製品すべての起点」といっても過言ではありません。
なぜナフサが不足しているのか
2026年2月末の中東情勢の緊迫化によって、ホルムズ海峡を通じたナフサの輸入に大きな支障が生じました。
日本は輸入ナフサの約74%を中東に依存してきた構造があり(2024年データ)、さらにナフサには原油やLPGと異なり国家備蓄制度がなく、民間の商業在庫はわずか約20日分しかありませんでした。
この非対称な備蓄構造が、今回の問題を深刻にしています。
国内では三菱ケミカルグループ・出光興産・三井化学・旭化成などが相次いでエチレン設備の減産を発表し、化学品全般の供給に影響が及んでいます。
化粧品の「中身」に使われるナフサ由来成分

化粧品の値上がりを理解するうえで重要なのは、化粧品の「中身の成分」と「容器・パッケージ」の両方にナフサが関わっているという点です。
まず成分側から見ていきましょう。
シリコーン類(シリコーンオイル・シリコーンゲル)
化粧品の「使い心地」を左右する最重要原料の一つがシリコーンです。
さらっとした肌触り、なめらかな伸び、まとまり感——これらの質感を作り出すのに欠かせない素材で、スキンケア・ヘアケア・メイクアップと幅広いカテゴリに使われています。
| 化粧品カテゴリ | シリコーンの主な役割 |
|---|---|
| 化粧水・美容液 | 肌なじみの向上、べたつき抑制 |
| 乳液・クリーム | 滑らかな伸び、しっとり感の付与 |
| ファンデーション | 崩れにくさ、均一な仕上がり |
| シャンプー・トリートメント | まとまり感、手触りの向上 |
| アイシャドウ・チーク | 色の密着性、発色の均一化 |
シリコーンの主要原料は、ナフサから分解されて得られるトルエンやキシレンです。
2026年4月17日、国内シリコーンシェア1位・世界シェア4位の信越化学工業がナフサ価格の高騰を理由に全シリコーン製品の10%以上の値上げを発表(2026年5月1日出荷分から適用)しており、化粧品メーカーへのコスト転嫁が今後進む見込みです。

BG(1,3-ブチレングリコール)
化粧品の成分表示を見ると「BG」の文字を頻繁に目にすることがあります。
これは1,3-ブチレングリコールのことで、化粧水・美容液・乳液などスキンケア全般に広く配合される保湿成分・溶剤です。
BGは石油化学由来の成分であり、製造にナフサが深く関わっています。
保湿力が高く防腐効果も持ち合わせることから、「ナールスゲン」「ヒアルロン酸」などの美容成分を安定的に保つ役割も担っています。
ナフサ由来の化学品コストが上昇すれば、BGの製造コストも連動して上がっていきます。
PG(プロピレングリコール)
プロピレングリコール(PG) もBGと同様に化粧品に広く使われる保湿・溶剤成分で、洗顔料・クレンジング・シャンプーなど幅広いアイテムに配合されています。
その原料はナフサから得られるプロピレンであり、ナフサショックの影響を直接受けやすい素材です。
エチレングリコール・ポリエチレングリコール(PEG)
乳化助剤・保湿剤・粘度調整剤として化粧品に使われるポリエチレングリコール(PEG) の製造にはエチレンオキサイド(EO)が使われます。
三菱ケミカルは2026年4月1日納入分からモノエチレングリコール・ジエチレングリコール・トリエチレングリコールを50円/kg以上値上げしており、このコスト上昇がPEGを含む化粧品の価格にも影響する可能性があります。
界面活性剤(乳化剤)
スキンケアの乳液・クリームが「水と油が混じった状態」を保てるのは、界面活性剤(乳化剤) の働きによるものです。
代表的な化粧品用乳化剤であるポリオキシエチレン系(POEアルキルエーテル等)は、ナフサ由来のエチレンオキサイドを原料として合成されています。
洗顔料やクレンジングに使われる洗浄系界面活性剤も同様で、ラウレス硫酸塩(AES)の製造工程ではエチレンオキサイドが使われます。
化粧品の「洗いやすさ」「泡立ち」「乳化安定性」を担う成分の多くが、ナフサを起点とした石油化学製品なのです。
防腐剤・香料の一部
化粧品の品質を保つために配合される防腐剤(フェノキシエタノール等)や、香料の一部もナフサ由来の芳香族化合物を原料とするものがあります。
フレグランスやアロマ系化粧品で使われる合成香料の多くは、石油化学由来の有機化学品から合成されています。
化粧品の「容器・パッケージ」に使われるナフサ由来素材

成分だけでなく、化粧品の容器やパッケージも大部分がナフサ由来の素材でできています。
これが「二重の値上げ圧力」につながる構造です。
ポリエチレン(PE)製容器
ポンプ式の化粧水ボトル・クレンジングの詰め替えパウチ・洗顔フォームのチューブなど、柔軟性のある容器にはポリエチレン(PE) が多用されます。
ポリエチレンはナフサから分解されたエチレンを重合して作られるプラスチックの代表格です。
ポリプロピレン(PP)製容器
コンパクトケースのボディ・フタ部分、美容液のキャップ、パレット型メイクアップ用品の外枠など、硬さが必要な部分にはポリプロピレン(PP) が使われます。
プロピレンもナフサ由来の基礎化学品です。
PET(ポリエチレンテレフタレート)製容器
透明感のある化粧水ボトルや香水のガラス調ボトルの代替品として使われるPET(ポリエチレンテレフタレート) は、ナフサ由来のエチレングリコールとパラキシレン(PX)を原料として製造されます。
三菱ケミカルのエチレングリコール値上げはPET製造コストにも直接影響します。
詰め替えパウチ(多層フィルム)
詰め替えタイプのシャンプー・ボディソープ・化粧水などに使われる多層フィルムパウチは、ポリエチレン・ポリプロピレン・ポリエステルなど複数のナフサ由来フィルムを積層した構造になっています。
複数の原料にそれぞれ値上がり圧力がかかるため、パウチ容器はコスト上昇の影響を受けやすい包材のひとつです。
容器コスト上昇の影響まとめ
| 容器・包材の種類 | 主な素材 | ナフサ由来の原料 |
|---|---|---|
| 柔軟性ボトル・チューブ | ポリエチレン(PE) | エチレン |
| コンパクトケース・キャップ | ポリプロピレン(PP) | プロピレン |
| 透明ボトル | PET | エチレングリコール、パラキシレン |
| 詰め替えパウチ | 多層フィルム(PE/PP/PET等) | エチレン、プロピレン |
| 内側コーティング | 合成樹脂系コーティング剤 | 各種化学品 |
成分と容器の「二重コスト上昇」が化粧品の値上がりを引き起こす

ここまで見てきた通り、化粧品はナフサを起点とした素材が成分・容器の両面に使われています。
この構造が、ナフサ不足における「二重のコスト上昇」につながります。
ナフサ不足・価格高騰
↓
基礎化学品(エチレン・プロピレン・トルエン・キシレン等)の価格上昇
↓
┌──────────────────────────┐
│ │
成分コスト上昇 容器コスト上昇
(BG・シリコーン・ (PE・PP・PET・
界面活性剤・PEG等) 多層フィルム等)
│ │
└──────────────────────────┘
↓
化粧品メーカーの製造コスト増大
↓
数か月〜1年のタイムラグを経て店頭価格に転嫁
原料コストが動いてから最終製品の小売価格に反映されるまでには、一般的に数か月から1年程度のタイムラグがあります。
これは、化粧品メーカーが原料を一定期間分まとめて調達していること、メーカーと小売店の間で価格交渉が必要なことなどが理由です。
2026年5月時点では、化粧品の店頭価格への直接的な影響はまだ限定的と言えますが、今後数か月にわたって値上げが波及してくる可能性は否定できない状況です。
影響が大きいカテゴリ・小さいカテゴリ

ナフサ不足の影響を受けやすいかどうかは、製品によっても差があります。
特に影響を受けやすい化粧品
| 製品カテゴリ | 理由 |
|---|---|
| シャンプー・コンディショナー | シリコーン・界面活性剤・容器(PE)の三重影響 |
| ボディソープ・洗顔料 | 界面活性剤(AES等)と容器の両面 |
| 乳液・クリーム | シリコーン・BG・乳化剤が主原料、詰め替え品も容器影響 |
| ファンデーション | シリコーン比率が高い、外容器(PP・PE)も影響 |
| 日焼け止め | シリコーン・乳化剤・フィルム剤が多用される |
比較的影響が小さい化粧品
- 天然由来成分主体のオーガニック系化粧品:植物性成分・天然油脂の比率が高い製品は、合成界面活性剤・シリコーンへの依存度が低い
- 水・グリセリン主体のシンプルスキンケア:グリセリンは油脂由来でナフサ依存度が低い
- ガラスびん入り製品:容器のナフサ依存がない(ただし成分は影響を受ける可能性がある)
ただし、「石油由来成分不使用」を謳う製品でも、製造過程や容器の一部に石油化学由来の素材が使われているケースは少なくありません。
完全に影響がゼロというわけではない点に注意が必要です。
ヘアサロン・エステの施術料金にも波及する可能性

ナフサ不足の影響は、家庭で使う化粧品だけにとどまりません。
美容業界全体に広がる可能性があります。
ヘアカラー・パーマ液
ヘアカラー剤・パーマ液に含まれる酸化染料・チオグリコール酸などの成分は石油化学由来です。
消耗品コストの上昇が施術料金に転嫁されていく可能性があります。
エステ・マッサージ用品
マッサージオイル・パック剤・シートマスクの不織布(ポリエステル・ポリプロピレン製)もナフサ由来の素材です。
業務用の詰め替え容器や施術用品のコスト上昇が、施術料金の値上げ圧力になり得ます。
ネイル用品
ジェルネイルに使われる合成樹脂(ウレタンアクリレート等)・マニキュアの溶剤(酢酸エチル等)・ネイルリムーバーのアセトン——いずれもナフサ由来または関連する石油化学品です。
消費者として今できること
焦らず、計画的に備える
まず大切なのは、急いで大量購入しないことです。
値上がり前の短期間に特定製品が集中して買われると、一時的な品薄状態を引き起こし、本当に必要な人が手に入れられなくなる可能性があります。
普段使いの化粧品について、1〜2か月分程度の適切な在庫を持つ範囲で備えることが合理的です。
詰め替え用を活用する
詰め替えタイプの製品は、容器コストを削減できるため本体価格より割安な場合が多いです。
ただし詰め替えパウチ自体も多層フィルムを使っているため、コスト上昇の影響がゼロではない点は念頭に置きましょう。
天然由来・シンプル処方の製品を試してみる
合成シリコーン・合成界面活性剤の使用を控えた「ノンシリコーン」「天然由来成分主体」の製品は、今後のコスト面でも相対的に有利になる可能性があります。
肌への相性を確認しながら、乗り換えを検討するのも一つの選択肢です。
ガラス容器・詰め替え不要の固形タイプを検討する
固形石鹸・固形シャンプー(シャンプーバー)・固形クレンジングなど、プラスチック容器を使わない形態の製品は、容器コスト上昇の影響を受けにくい傾向があります。
値上がりのタイムラインはどう読むか

現時点(2026年5月)でナフサ不足が続く状況を踏まえると、化粧品への価格転嫁のタイムラインはおおむね以下のように見込まれます。
| 時期(目安) | 想定される動き |
|---|---|
| 2026年5〜6月 | シリコーン原料の値上げ(信越化学5月1日出荷分〜)が化粧品メーカーに到達 |
| 2026年夏〜秋 | 一部メーカーが化粧品・日用品の価格改定を発表・実施 |
| 2026年秋〜冬 | 店頭価格への転嫁が本格化する可能性 |
| 2027年以降 | 中東情勢が長期化した場合、追加の値上げラウンドが起きる可能性も |
ただし、中東情勢の変化・代替調達先の確保・メーカーの自助努力によって、上記の見通しが変わる場合もあります。高市首相は2026年4月末の時点で「少なくとも4か月分のナフサは確保できている」との見解を示しており、直ちに製品が店頭から消えるという状況ではありません。
よくある質問
Q1. 化粧品の成分表示でナフサ由来かどうか判断できますか?
成分名から石油由来かどうかを完全に判断することは難しい面がありますが、「ジメチコン」「シクロペンタシロキサン」「シクロヘキサシロキサン」などシリコーン系成分、「BG」「PG」「PEG-〇〇」などグリコール系成分は石油化学由来が多いです。「植物由来」「天然由来」と明示されている成分はナフサへの依存度が低い場合があります。
Q2. 「ノンシリコーン」と書かれた製品は影響を受けませんか?
シリコーンを使用していなくても、BG・PG・乳化剤など他のナフサ由来成分や、プラスチック容器のコスト影響は残ります。ノンシリコーン製品でも値上がりリスクをゼロにはできません。
Q3. 天然由来・オーガニック化粧品は安全ですか?
天然由来成分を主体とする化粧品は、合成石油化学成分への依存度が相対的に低いため、今回のナフサショックの影響を受けにくい可能性があります。ただし「完全に石油化学品不使用」という製品はほとんど存在せず、容器や一部製造工程に石油化学由来の素材が使われていることがほとんどです。
Q4. 詰め替え用製品も値上がりしますか?
詰め替えパウチに使われる多層フィルム(PE・PP・PET等)もナフサ由来の素材のため、値上がりから無縁ではありません。ただし本体のプラスチックボトルと比較して素材使用量が少ないため、相対的には容器コストの上昇幅が小さくなる傾向があります。
Q5. 海外ブランドの化粧品も値上がりしますか?
海外ブランドも原料・容器に石油化学品を使っている点は国内ブランドと変わりません。加えて、円安が続いている局面では輸入コストも上乗せされるため、為替の影響も重なる形で値上がりの圧力がかかりやすい状況です。
まとめ

ナフサ不足が化粧品の値上がりにつながる理由は、成分と容器の両面にナフサ由来の素材が深く組み込まれていることにあります。
- シリコーン・BG・PG・PEGなどの化粧品成分はナフサ由来の石油化学品が原料
- ボトル・チューブ・パウチなどの容器もポリエチレン・ポリプロピレン・PETなどナフサ由来プラスチックが主体
- 国内シェア1位の信越化学工業が2026年5月から全シリコーン製品を10%以上値上げ(ナフサ高騰を理由)
- 原料コストが店頭価格に転嫁されるまでには数か月〜1年のタイムラグがある
- 2026年夏から秋にかけて化粧品の価格改定が相次ぐ可能性がある
直ちにパニック購買する必要はありませんが、1〜2か月分の適度な備えと、天然由来成分主体の製品や固形タイプの製品への乗り換え検討など、家計の状況に合わせた準備が安心につながります。
ナフサ不足の動向は今後も続くと見られます。
成分表示を意識しながら賢く選ぶことが、物価高や不足を乗り越えるひとつの手段となると思いますので、検討してみてはいかがでしょうか?

