モバイルバッテリーが突然発火した、電車内で煙が出た―
そんなニュースを見て、不安を感じたことがある方も多いのではないでしょうか。
実は、モバイルバッテリーからの発火事故は近年増えており、電車内での事故や航空機内での発火・発煙も報告されているほか、家庭での火災原因となる事例も増加傾向にあります。
東京消防庁によれば、2024年には住宅火災におけるリチウムイオン充電池が関わる火災件数が106件に達しており、急速な拡大が顕著です。
日常的に使っているからこそ、「自分のバッテリーは大丈夫なのか」「発火したらどうすればいいのか」を事前に知っておくことが重要といえるでしょう。
この記事では、モバイルバッテリーが発火する原因・前兆サイン・発火時の正しい対処法・安全な製品の選び方まで、順を追って解説しますので、ぜひご参考ください。
モバイルバッテリーが発火する根本的なしくみ

リチウムイオン電池が発火する理由
モバイルバッテリーの発火の原因となっているのは、内蔵されたリチウムイオン電池です。
このリチウムイオン電池に何らかのトラブルが発生すると発熱し、発火や爆発につながります。
リチウムイオン電池は高密度にエネルギーを蓄えられる一方で、内部構造が非常にデリケートです。
電池の中には正極・負極を隔てるセパレーターがあり、これが破損したり短絡(ショート)したりすると急激な発熱が起こります。
この発熱が制御できなくなると「熱暴走」と呼ばれる状態に陥り、内部温度が一気に上昇します。
結果としてガスの膨張や発火に至ることがあり、これがモバイルバッテリー発火の根本的なメカニズムです。
リチウムイオン電池は、電解液として有機溶媒にリチウム塩を溶かしたものを使っており、この有機溶媒の引火性が高いことが発火のリスクを高めています。
一度「熱暴走」が始まると、数秒で数百度に達する可能性があります。
事故件数の実態
2020年から2024年の5年間にNITE(製品評価技術基盤機構)に通知された「リチウムイオン電池搭載製品」の事故は1,860件あり、事故の約85%が火災事故に発展しています。
また事故発生件数は春から夏にかけて増加し、6月〜8月にピークを迎える傾向があります。
モバイルバッテリーが発火する主な原因7つ

①製品の品質が低い(安全装置の不備)
特に重要なのが、電気を送る部分に配置された安全装置です。
この安全装置は、充電中に発熱した場合、給電スピードを落として温度を制御する役割を持ちます。
安価なモバイルバッテリーでは、安全装置がきちんと機能しないケースや、最悪の場合、安全装置そのものがついていない可能性があります。
安価なモバイルバッテリーを調べた調査では、「電池内部の電極に巻きずれがあるもの」「電池表面に錆があるもの」「導線が絡んで組み込まれているもの」「PSEマークが本体にないもの」など、品質に問題がある製品が複数確認されています。
②リチウムイオン電池の劣化・膨張
リチウムイオン電池は、劣化すると電解質の酸化が起こります。
電解質が酸化することでガスが発生し、バッテリーが内部から膨張します。膨張によって直接的に発火が起こるとは考えにくいですが、これに衝撃が加わることで事故につながる恐れがあります。
バッテリーが「ぷっくり膨らんでいる」と感じたら、劣化が進んでいるサインです。
その状態で使い続けるのは非常に危険です。
③落下・衝撃による内部ショート
落とす・ぶつけるなどの衝撃で内部ショートが起きることがあります。
また、リチウムイオン電池が劣化して電解質が酸化すると、ガスが発生してバッテリーが内部から膨張し、これに衝撃が加わると発火や爆発が起きることもあります。
外観に傷がなくても、内部でセパレーターが損傷している場合があります。
一度でも強く落下させた場合は、すぐに点検・使用中止を検討してください。
④高温環境での使用・放置
モバイルバッテリーを使用する際は、高温を避けて必要以上に発熱が起こらない環境を保つことが大切です。
真夏の車内など高温の場所で使用することは絶対に避けましょう。
また、カバンやポケットの中でモバイルバッテリーを使用するのも高温になるため大変危険です。
実験では、炎天下の自動車内で、モバイルバッテリーを充電コードのみ接続した状態で放置したところ、約2時間後に出火したという結果も報告されています。
⑤過充電・充電しながらの使用
長時間の過充電や発熱中の使用は内部温度を上昇させ、バッテリーに負荷を与える原因になります。
特に寝ている間の充電や、布の上など熱がこもる場所での使用は避けましょう。
充電しながらゲームなど負荷の高い操作を続けると、スマートフォンとモバイルバッテリーの両方が発熱し、相乗的に危険な状態に近づきます。
⑥非対応の充電器・ケーブルの使用
純正ケーブルや定格に合ったアダプターを使うことも大切です。
不適切な充電器や対応していない急速充電機能を誤って使うと、本来の設計段階で想定されている以上の電流が流れ、バッテリー内部で異常な発熱を招く可能性があります。
⑦金属類との接触(ショート)
金属類と一緒に入れると端子が接触してショートするおそれがあります。
バッテリーは専用ポーチや布袋などで分けて持ち運ぶと安心です。
鍵・硬貨・ヘアピンなどをモバイルバッテリーと同じポケットやポーチに入れていると、端子に触れてショートが起きる恐れがあります。
発火前兆サインを見逃さないで

発火には必ず前兆があります。以下の症状が見られたら、すぐに使用を中止してください。
| 前兆サイン | 内容・注意点 |
|---|---|
| バッテリーの膨張・変形 | ぷっくり膨らんでいる、形がいびつになっている |
| 異常な発熱 | 使用・充電していないのに熱い、触れないほど熱くなる |
| 異臭 | 酸っぱい・焦げるような臭いがする(電解液漏れの可能性) |
| 異音 | 「ジュー」「ピー」などの異音がする |
| 充電時間の異常な変化 | 急に充電が遅くなった、またはすぐ満充電になる |
| 電解液の漏れ | 本体に液体が滲んでいる(皮膚・目への接触は危険) |
電解液の漏れは極めて危険で、腐食性があるため皮膚や目に触れないよう注意が必要です。
上記のいずれかが見られたら、ビニール袋等に入れて燃えやすいものから遠ざけ、速やかにメーカーや自治体の回収窓口に相談してください。
万が一発火したときの正しい対処法
絶対にやってはいけないこと
リチウムイオン電池の火災に少量の水をかけると、化学反応で水素ガスが発生し、爆発的な燃焼を招く恐れがあります。
水を少量かける行為は、状況を悪化させる可能性があるため、厳禁です。
正しい初期対応
| 対処 | 内容 |
|---|---|
| 離れる・遠ざける | 周囲の可燃物(カーテン・布類)から遠ざける。煙を絶対に吸わない |
| 大量の水で水没 | 消火が難しい場合、バケツ等で圧倒的な大量の水に水没させ温度を下げる |
| 119番通報 | 「手に負えない」と感じたら即座に避難し、119番に連絡する |
初期消火にはリチウム電池対応の消火器が有効です。
もしない場合は、火が広がらないよう周囲の可燃物を遠ざけ、バケツなどでの大量の水で水没させ温度を下げる方法が有効とされています。
ただし、煙を吸わないことが最優先です。
少しでも「手に負えない」と感じたら、即座に避難して119番通報してください。
安全なモバイルバッテリーの選び方
PSEマークを必ず確認する
PSEマークとは、日本の「電気用品安全法(PSE法)」に基づき、安全基準を満たした製品だけに付けられるマークです。
モバイルバッテリーはリチウムイオン電池を使うため発火や爆発のリスクがあり、2019年2月からモバイルバッテリーもPSE法の規制対象になりました。
PSEマークを取得するためには、電気用品安全法の規定に沿った試験を実施し、通常使用時の安全性はもちろん、落下時や異常高温といった誤使用における安全性についても確認する必要があります。
さらに、2024年12月にはPSEの技術基準が新しい基準に完全移行しました。
これにより旧基準で認証された製品は販売できなくなっています。
購入時にはPSEマーク付きであることに加えて、製造年が2024年以降のものかどうかをチェックすると安心です。
チェックリスト:安全なバッテリーを見分けるポイント
| チェックポイント | 確認内容 |
|---|---|
| PSEマークの有無 | 本体またはパッケージに〇PSEマークがあること |
| 製造年 | 2024年以降の新基準対応品かどうか |
| 保護回路 | 過充電防止・過放電防止・ショート防止・高温遮断機能 |
| メーカー | 家電量販店取扱品・大手ブランドの製品を優先 |
| リコール確認 | NITE・消費者庁のリコール情報を確認する |
リコール製品に注意
2020年〜2024年の5年間で、リコール対象製品の事故が360件以上発生しているため、リコール対象となっているかどうかの確認が重要です。
お手元のモバイルバッテリーが対象になっていないか、NITE(製品評価技術基盤機構)または消費者庁のウェブサイトで必ず確認してください。
日常的なNG行為と安全な使い方

やってはいけないNG行為
| NG行為 | 理由 |
|---|---|
| 真夏の車内・直射日光の当たる場所に放置 | 高温でバッテリーが劣化・発火 |
| カバンやポケットの中で充電しながら使用 | 熱がこもり危険 |
| 鍵・硬貨などの金属類と一緒に持ち運ぶ | 端子のショートリスク |
| 充電しながらゲーム・動画など高負荷な操作 | 二重発熱でリスク増大 |
| 膨張・変形しているのに使い続ける | 熱暴走の引き金 |
| 非対応の充電器・ケーブルで充電 | 規格外の電流が流れる可能性 |
| 就寝中・就寝前の充電 | 発火に気づけず危険 |
安全な使い方まとめ
- 充電は涼しい場所で、目が届く状態で行う
- 充電が完了したらケーブルを抜く
- 2年以上使用したものは買い替えを検討する
- 落下・強い圧力を与えた後は外観・状態を確認する
- 使用しない期間が長い場合は50〜60%程度の残量で保管する
廃棄・処分の正しい方法
モバイルバッテリーは燃えるゴミ・燃えないゴミとして捨ててはいけません。
ゴミ収集車の圧縮による発火が社会問題になっています。
正しい処分方法
| 処分方法 | 詳細 |
|---|---|
| 家電量販店の回収BOX | ヤマダ電機・ビックカメラ・ヨドバシカメラ等に設置 |
| JBRCの回収ボックス | ホームセンター・スーパー等にも設置あり |
| 自治体の指定方法 | 各市区町村の案内を確認 |
| 携帯ショップ | 購入店舗で受け付けている場合あり |
廃棄する際は端子部を絶縁テープで処理し、充電を使い切った状態(放電状態)で排出するようにしましょう。
リチウムイオン電池は放電された状態のほうが発火・発煙のリスクが比較的低くなります。
また、本体から取り外しができない場合があります。取り外そうとして無理に分解しないでください。
分解の際に発火・発煙する可能性があります。
よくある質問(Q&A)
Q. モバイルバッテリーを落としてしまいました。そのまま使っても大丈夫ですか?
外観に傷がなくても内部のセパレーターが損傷している可能性があります。落下後はしばらく様子を見て、発熱・膨張・異臭などの前兆がないか確認してください。少しでも異変を感じたら使用を中止し、メーカーに相談されることをお勧めします。
Q. 発火したときに水をかけてはいけないのですか?
少量の水をかけると化学反応で水素ガスが発生し、爆発的な燃焼を招く恐れがあります。初期対応として有効なのは「大量の水で水没させ温度を下げる」方法です。ただし「手に負えない」と感じたら直ちに避難し119番通報してください。
Q. PSEマークがついていれば完全に安全ですか?
PSEマークは安全基準を満たしていることの証明であり、リスクを大幅に低減できます。ただし、使い方や保管状況が不適切であれば事故のリスクはゼロにはなりません。PSEマーク付き製品を選んだうえで、正しく使用・保管することが重要です。
Q. モバイルバッテリーの買い替え時期の目安は?
一般的に2〜3年が目安とされています。充電のもちが極端に悪くなった、本体が膨らんできた、異常な発熱が見られるといった症状が出た場合は、使用年数にかかわらず早めに交換を検討してください。
Q. 飛行機の機内にモバイルバッテリーを持ち込めますか?
国内外の航空各社の規定が変更されつつあります。座席上の収納棚への収納が禁止されているケースも増えています。搭乗前に利用航空会社の最新ルールを必ず確認してください。また、リチウムイオン電池製品は預け荷物ではなく機内持ち込みが原則です。
まとめ

モバイルバッテリーの発火原因と対策をまとめると、次のとおりです。
| 原因 | 対策 |
|---|---|
| 低品質・安全装置のない製品 | PSEマーク付き・大手メーカー品を選ぶ |
| リチウムイオン電池の劣化 | 膨張・異熱・異臭が出たら即使用中止 |
| 衝撃・落下による内部ショート | 落下後は必ず状態確認 |
| 高温環境への放置 | 車内・直射日光を避ける |
| 過充電・充電しながらの使用 | 充電完了後はケーブルを抜く |
| 非対応ケーブル・充電器 | 純正品・認証品を使用する |
| 金属類との接触 | 専用ポーチで分けて持ち運ぶ |
モバイルバッテリーは正しく選んで・正しく使えば、非常に便利で安全な製品です。
ただし、内蔵するリチウムイオン電池の特性上、扱い方を誤ると重大な事故につながる可能性があります。
この記事を参考に、お手元のバッテリーの状態を今一度確認してみてはいかがでしょうか。

