「いつも使っているコンタクトレンズが値上がりするかもしれない」「品薄になったら困る」——そんな不安を感じている方は多いのではないでしょうか。
2026年春、中東情勢の緊迫化を背景としたナフサ不足が深刻化し、ゴミ袋・洗剤・食品容器といった日用品への影響がニュースを連日にぎわせています。
実は、毎日目に入れて使うコンタクトレンズも、この問題と無関係ではありません。
この記事では、なぜコンタクトレンズがナフサ不足の影響を受けるのか、現時点でどのような状況にあるのか、そしてコンタクトユーザーが今できる対応策を、わかりやすく整理します。
コンタクトレンズとナフサ、どんな関係があるのか

「コンタクトレンズって、水分をたくさん含んだ透明な素材でできているのでは?石油とは関係なさそう」と思う方も多いかもしれません。
しかし実際には、コンタクトレンズの素材のほとんどが、ナフサを出発点とする石油化学製品からつくられています。
コンタクトレンズの主要素材を知る
現在市場に流通しているソフトコンタクトレンズの素材は、大きく以下の2種類に分けられます。
| 素材の種類 | 代表成分 | 主な特徴 | 製品例 |
|---|---|---|---|
| HEMA系ハイドロゲル | ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA) | 水分を含むと柔らかくなる。含水率が高いほど酸素透過性が上がるが、乾燥しやすい | ワンデーアキュビューモイスト、メダリストワンデープラスなど |
| シリコーンハイドロゲル | シリコーン+HEMA系ポリマー | 素材自体が酸素を透過。低含水率でも酸素透過性が高く、乾燥しにくい | アキュビュー オアシス、デイリーズトータルワンなど |
どちらの素材も、製造にナフサ由来の化学原料が不可欠です。
HEMA(ヒドロキシエチルメタクリレート) は、ナフサを熱分解して得られるプロピレンからアクリル酸系モノマーが生成され、さらに化学処理を経て合成されます。
シリコーンハイドロゲル は、シリコーン(ポリジメチルシロキサン)とHEMA系ポリマーを組み合わせた複合素材です。シリコーン自体はケイ素ベースですが、ハイドロゲル部分のアクリル酸系成分はナフサ由来です。さらに、レンズ表面のコーティング材・紫外線吸収剤・保湿成分の多くも石油化学系の化合物です。
加えて、コンタクトレンズが入っているブリスターパック(小さなプラスチック容器)もポリプロピレンやポリスチレン製で、エチレン・プロピレンを原料とするナフサの川下製品に当たります。
ナフサ→エチレン・プロピレン→アクリル系モノマー→コンタクトレンズ素材
コンタクトレンズ素材のサプライチェーンをたどると、次のような流れになります。
原油 → 精製 → ナフサ → 熱分解(クラッキング)
→ エチレン・プロピレン等
→ アクリル酸・メタクリル酸等のモノマー
→ HEMA・シリコーンハイドロゲル等の重合体
→ コンタクトレンズ素材(+ ブリスターパック)
ナフサの供給が滞り価格が高騰すると、この工程の最上流コストが上昇し、最終的にコンタクトレンズの製造コストへ転嫁される構造です。
日本のコンタクトレンズ市場は「輸入依存」という構造的リスク

コンタクトレンズ素材の問題に加えて、日本市場特有のリスクがあります。
それは、市場の大半を外資系メーカーの輸入品が占めているという点です。
日本市場のシェア構造
矢野経済研究所のデータをもとにした推計によると、コンタクトレンズの国産メーカーシェアは1992年には約81%を占めていましたが、使い捨てタイプの普及にともなう外資系メーカーの台頭により、現在はJ&J(アキュビュー)・アルコン(デイリーズ)・クーパービジョン・ボシュロムの外資4社で国内シェアの約62%以上を占めるとされています。
これらの主要製品の製造拠点は、米国・アイルランドなどの欧米圏が中心です。
つまり日本市場には、海外で製造されたレンズが輸入されて流通している割合が非常に高い構造になっています。
この「輸入依存型」の流通構造が、ナフサ不足局面において次のようなリスクを生じさせます。
| リスクの種類 | 内容 |
|---|---|
| 国内流通在庫が薄い | 国内製造分と異なり、輸入品は海外在庫→輸送→国内流通という工程を経るため、サプライチェーンの変動を受けやすい |
| 為替変動の影響 | ナフサ価格高騰+円安が重なると、輸入コストが二重で膨らむ |
| 供給元の製造コスト上昇 | 欧米の製造拠点もナフサ由来の石油化学原料を使用しているため、製造コスト上昇が価格に反映される |
| ブリスターパック・包装材の同時影響 | レンズ本体だけでなく包装材もポリプロピレン等のナフサ由来材料を使用 |
2026年現在の状況:価格・供給への影響は始まっているか

2026年5月現在、コンタクトレンズそのものが全国的に店頭から消えているという状況ではありません。
ただし、以下のような変化の兆しが指摘されています。
価格上昇の可能性
ナフサ→アクリル系モノマーという製造チェーンの価格上昇が、コンタクトレンズの製造コストに転嫁されるまでには、一定のタイムラグが生じます。
素材の在庫・製品在庫・流通段階の在庫がバッファーとして機能するためです。
ただし、2026年春以降に発生したナフサ価格の急騰は過去に例を見ない規模であり、次の価格改定タイミングで値上げに踏み切るメーカーが出てくる可能性は否定できません。
洗浄液・ケア用品への影響も見逃せない
コンタクトレンズを使用する際に欠かせない 洗浄液(ケアソリューション) も、ナフサ不足の影響を受けやすい製品です。
- 容器(ボトル):ポリプロピレン製→エチレンやプロピレンのナフサ由来
- 洗浄成分(界面活性剤の一部):石油化学系の原料を使用するものが多い
- 防腐剤・添加物の一部:石油化学系化合物を含む場合がある
コンタクトレンズ本体だけでなく、日常的に使うケア用品も同じ供給リスクにさらされているという点を、念頭に置いておくことが大切です。
「医療機器」であることが品薄対策の難しさにつながる
コンタクトレンズは薬機法上の「高度管理医療機器(クラスIII)」に分類されます。
これは、自由に代替品へ切り替えられるわけではないことを意味します。
ゴミ袋が品薄になれば他の袋で代替できますが、コンタクトレンズは自分の度数に合った製品でなければ使用できません。
また、素材が変わると目への適合性も変わるため、眼科医による処方・フィッティングが必要です。
この「代替の難しさ」が、コンタクトレンズの供給不足・価格上昇の影響を受けやすくする要因にもなっています。
素材別・タイプ別の影響の違い

コンタクトレンズのタイプによって、ナフサ不足の影響度合いに違いが生じる可能性があります。
使い捨てタイプ(ワンデー・2ウィーク)
使い捨てレンズは、消耗速度が速い分、定期的な補充が必要です。
また、前述の通り外資系メーカーへの依存度が高く、輸入在庫の変動を受けやすい面があります。
大量に製造・流通しているだけに、素材コストの上昇が価格に反映されやすい構造でもあります。
ハードコンタクトレンズ
ハードレンズに使われる素材(シリコーンアクリレート系)も、アクリル系モノマーを原料とするためナフサとの関連はあります。
ただし、1枚のレンズを数年使い続けるため、消耗ペースが遅く、直近の供給不安の影響は使い捨てタイプより小さいと考えられます。
カラーコンタクトレンズ
カラーレンズはHEMA系やシリコーンハイドロゲル素材に加え、着色剤(染料・顔料)も使用します。顔料の一部もナフサ由来の芳香族化合物を原料とするケースがあり、影響のレイヤーが多い分だけコスト上昇圧力が強まる可能性があります。
コンタクトユーザーが今できること

コンタクトレンズを日常的に使用している方が、現時点でとることができる対応策を整理します。
ただし、コンタクトレンズは医療機器である点を踏まえ、安全・適切な使用を優先したうえでの判断が前提です。
適正な範囲でのストック確保
使い捨てコンタクトレンズには使用期限があります(未開封状態での「消費期限」は概ね3〜4年程度のものが多いですが、製品・メーカーによって異なります)。
家族の使用量と使用期限を確認したうえで、無理のない範囲で数ヶ月分のストックを手元に置いておくことを検討してもよいでしょう。
ただし、開封後のレンズは規定の交換サイクルを必ず守ることが大切です。
使い捨てレンズを無理に延長使用すると、目のトラブルにつながるリスクがあります。
洗浄液・ケア用品も同時に確認
2ウィークや1ヶ月タイプを使用している方は、レンズ本体と同様に洗浄液の在庫も確認しておくことをおすすめします。
メガネとの使い分けを見直す
コンタクトレンズの価格が上昇した場合、メガネとの併用頻度を見直すことがコスト面で有効な対応になります。
在宅勤務の日や外出頻度が少ない日はメガネを使用するなど、使い分けることでコンタクトレンズの消耗ペースを調整できます。
視力矯正の観点でも、メガネを常に適切な度数のものに保っておくことが、緊急時のバックアップとして安心につながります。
眼科での処方・フィッティング確認
コンタクトレンズの種類を変更する場合は、必ず眼科医に相談してください。
素材が変わると目への適合性が変わることがあり、自己判断での銘柄変更はトラブルの原因になります。
かかりつけの眼科で、現在の目の状態と使用レンズが適切かどうか、定期的に確認することをおすすめします。
国産メーカーの製品は影響を受けにくいか
「国産のコンタクトレンズなら安心では?」という疑問を持つ方もいるかもしれません。
国産メーカー(メニコン・シード・シンシア・東レなど)の製品も、素材の原料が石油化学製品であることに変わりはありません。
ただし、国内に製造拠点を持つ国産メーカーは、輸送リスクの観点では外資系輸入品よりも安定供給が期待できる面はあります。
一方で、素材原料となるアクリル系モノマーの多くは国内・アジア圏の石油化学メーカーから調達されており、ナフサ価格の上昇は国産品の製造コストにも波及します。
国産・外資を問わず、今回のナフサ不足の影響を完全に免れるコンタクトレンズは存在しないと考えておくことが現実的です。
よくある質問(Q&A)
Q. ナフサ不足でコンタクトレンズはいつ値上がりするの?
A. 2026年5月現在、具体的な値上げ時期が公式に発表されたメーカーは確認できていません。ただし、素材コストの上昇が製品価格に転嫁されるには通常半年〜1年程度のタイムラグがある場合が多く、今後の価格改定には注意が必要です。
Q. 国産コンタクトレンズなら影響を受けない?
A. 国産品も素材の原料はナフサ由来の石油化学製品であるため、価格面への影響はあります。ただし、国内製造品は輸送リスクの観点で供給安定性の面では外資系輸入品より有利な面があります。
Q. コンタクト不足に備えてまとめ買いしても大丈夫?
A. 使い捨てレンズには使用期限があります(未開封での消費期限は製品によって異なります)。自分が使い切れる量の範囲内で確認してから購入することをおすすめします。また、開封後は規定の使用期間を必ず守ってください。
Q. 洗浄液がなくなったら水道水で代用できる?
A. 絶対に避けてください。水道水には塩素や微生物が含まれており、コンタクトレンズを水道水でケアするとアカントアメーバ角膜炎などの重篤な眼疾患を引き起こすリスクがあります。洗浄液は安全使用の必須アイテムです。
Q. メガネとコンタクトはどのように使い分けるのがいい?
A. 特定のルールはありませんが、コンタクトの消耗を抑えたい場合は、在宅日・近距離での作業が多い日はメガネを選ぶ方法が一般的です。ただし、メガネの度数も定期的に確認し、現在の視力に合ったものを使用することが大切です。
まとめ

コンタクトレンズとナフサ不足の関係をまとめると、次のようになります。
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| 素材の原料 | ソフトコンタクトの主素材(HEMA・シリコーンハイドロゲル)はナフサ由来のアクリル系モノマーが原料 |
| ブリスターパック | 包装に使われるポリプロピレン等もナフサの川下製品 |
| 洗浄液・ケア用品 | ボトル容器・成分の一部がナフサ由来で、同じ影響を受ける |
| 日本市場の特性 | 外資系メーカーの輸入品が市場の6割超を占め、国内在庫が薄い |
| 代替の難しさ | 医療機器のため自由に代替できず、眼科処方が必要 |
| 現時点の状況 | 2026年5月時点で全国的な品薄は確認されていないが、価格上昇圧力は存在する |
コンタクトレンズは視力矯正に欠かせない医療機器です。
使用ルールを守ったうえで、適切な範囲でのストック確保と、メガネとの使い分けを組み合わせることが、現時点での最も合理的な備えといえるでしょう。
ただメガネのレンズも同様にナフサ由来ですので、早めの準備をしておくことをおすすめします。
また、素材変更・銘柄変更を検討する場合は、必ずかかりつけの眼科医に相談することをおすすめします。
大切な目の健康を守ることが、何よりも優先にしていきましょう。

