灯油に、ライターの火を近づけたら、燃えるのでしょうか。
「灯油は、ガソリンと違って、簡単には火がつかないらしい」と、聞いたことのある方も多いでしょう。
たしかに、常温の灯油に、ライターの火を近づけただけでは、すぐには燃え出しません。
ところが、その同じ灯油が、条件が変わると、勢いよく燃えることがあります。
灯油の事故の多くは、「火がつきにくいから大丈夫」という思い込みから、起きているといえるでしょう。
この記事では、灯油が燃えにくい理由と、燃える仕組みを整理したうえで、火がつきやすくなる場面、ストーブの炎が上がる仕組み、そして日ごろ気をつけたいことを、順に説明していきます。
なお、ここで紹介する内容は、安全に使うための知識です。実際に火を近づけて確かめるようなことは、絶対にしないでください。
全体像:常温の液体は燃えにくい。ただし条件しだいで燃える
まず、全体像を整理しておきましょう。
| 場面 | 火のつきやすさ | 理由 |
|---|---|---|
| 常温の灯油(液体のまま) | つきにくい | 燃える濃度の蒸気が、ほとんど出ていない |
| 布・紙・ぼろにしみこんだ灯油 | つきやすい | 表面積が広がり、蒸気が出やすくなる |
| 霧状(ミスト)の灯油 | 非常につきやすい | 細かい粒が、空気とよく混ざる |
| 温度が高くなった灯油 | つきやすい | 蒸気の量が増える |
| ガソリンが混ざった灯油 | きわめてつきやすい | 引火点が大きく下がる |
| ストーブの芯の先 | 意図して燃える | 芯で吸い上げ、気化して燃える |
「液体のままなら、つきにくい」という性質は、条件が変わると、あっさりと崩れます。
次の章から、その理由を、順番に見ていきましょう。
燃えているのは、液体ではなく「蒸気」
物が燃えるとき、実際に燃えているのは、液体そのものではありません。
液体の表面から出た、気体(蒸気)が、空気中の酸素と混ざって燃えているのです。
灯油も同じです。
燃えるためには、次の条件がそろう必要があります。
| 条件 | 内容 |
|---|---|
| 燃えるもの | 灯油の蒸気 |
| 酸素 | 空気中の酸素 |
| 熱源 | 火やスパークなど、着火するエネルギー |
| 蒸気の濃度 | 空気と混ざった蒸気が、燃える範囲の濃さであること |
とくに大事なのは、4つ目の「蒸気の濃度」です。
蒸気が薄すぎても、濃すぎても、火はつきません。
灯油の蒸気が、空気中で燃えることのできる濃さは、およそ0.7%から5%とされています。
この範囲を、燃焼範囲(爆発範囲)と呼びます。
なぜ、ライターの火では燃えにくいのか
常温の灯油は、蒸発しにくい液体です。
家庭用の白灯油は、引火点が40℃以上と定められています。
引火点とは、液体の表面に、火が近づくと燃え出す蒸気が出る、いちばん低い温度のことです。
| 項目 | ガソリン | 灯油 |
|---|---|---|
| 引火点 | −40℃以下 | 40℃以上 |
| 冬の屋外(0℃前後) | 燃える蒸気が出ている | 燃える蒸気は、ほとんど出ない |
| 夏の屋外(30℃前後) | 燃える蒸気が出ている | まだ、燃える蒸気は少ない |
灯油は、気温が20℃や30℃のときには、燃える濃度の蒸気を、ほとんど出していません。
そのため、ライターの火を近づけても、燃え移る蒸気がなく、火がつきにくいのです。
ある研究では、灯油の蒸気は、30℃や50℃では、火花を当てても着火せず、80℃になって、はじめて着火したと報告されています。
つまり、温度が低いほど、火がつきにくいという性質が、はっきり見て取れます。
ただし、これは「液体のままで、温度が低いとき」の話にすぎません。
次の章で見るように、条件が変わると、この安全は、簡単に失われます。
引火点については、別の記事で詳しく
引火点と発火点の違いや、数値の意味については、灯油の引火点と発火点で詳しく解説しています。
この記事では、「火がつくかどうか」という、日常の疑問に焦点を当てて、話を進めます。
それでも燃える場面1:布や紙にしみこんだとき
灯油が、燃えやすくなる代表的な場面が、布や紙にしみこんだときです。
液体のまま、床に溜まっているよりも、危険が高まります。
| 状態 | 燃えやすさが増す理由 |
|---|---|
| 灯油をこぼして拭いた雑巾 | 繊維の間に広がり、空気に触れる面が増える |
| 新聞紙やぼろに吸わせた灯油 | 表面積が大きくなり、蒸気が出やすくなる |
| 衣類についた灯油 | 繊維が芯のように働き、火が長くとどまる |
ストーブの芯も、原理は同じです。
繊維に灯油を吸わせると、表面積が広がり、そこから蒸気が出やすくなります。
その結果、液体だけのときよりも、火がつきやすくなるのです。
こぼした灯油を拭いた布は、火気の近くに置かず、適切に処理してください。
それでも燃える場面2:霧状になったとき
もうひとつ、見落とされがちなのが、霧状(ミスト)になった灯油です。
液体は、細かい粒になると、空気に触れる面積が桁違いに大きくなります。
その結果、蒸気を出すのを待たなくても、空気とよく混ざって、燃えやすい状態になります。
労働安全衛生総合研究所の実験では、直径が約5マイクロメートルの灯油のミストは、1ミリジュール以下の、ごく小さな静電気の火花でも、着火することが確認されています。
引火点が高いからといって、霧状になった灯油は、安全とはいえないのです。
| 霧状になる場面 | 注意点 |
|---|---|
| 高い圧力で噴き出す | 配管の破損や、ホースの接続不良による噴出に注意 |
| スプレーのように吹き付ける | 灯油をスプレー容器に入れて使うのは避ける |
| 高温の機器に、灯油がかかる | 高温の表面に触れると、一気に蒸発して燃えやすくなる |
灯油を扱うときは、配管やホースの劣化に注意し、噴き出したり、飛び散ったりしないようにしましょう。
それでも燃える場面3:温度が高くなったとき
灯油は、温度が上がるほど、蒸気を多く出します。
引火点の40℃を超えると、火が近づいただけで、燃える蒸気が出はじめます。
| 場面 | 温度が上がる理由 |
|---|---|
| 夏の車内 | 閉め切った車内は、高温になる |
| 日なたに置いた容器 | 直射日光で、容器と中身が温まる |
| ストーブやヒーターの近く | 輻射熱で、容器や床の灯油が温まる |
| 加熱された機器にこぼれた | 高温の表面で、急に蒸気が出る |
夏の車内に、灯油の缶を置きっぱなしにすることは、避けてください。
温度が上がった灯油は、冬の寒い日とは、まるで別の物のように、燃えやすくなります。
それでも燃える場面4:ガソリンが混ざったとき
灯油に、わずかでもガソリンが混ざると、引火点が一気に下がります。
ガソリンは、マイナス40℃以下でも、燃える蒸気を出す物質です。
灯油に混ざると、全体が、ガソリンに近い性質を持ち始めます。
| 場面 | 起こりうること |
|---|---|
| 灯油の缶に、ガソリンを入れてしまった | 引火点が下がり、常温でも引火する |
| ガソリン用の缶を、灯油に流用した | 缶に残ったガソリン分が混ざる |
| 同じポンプを、ガソリンと灯油で使い回した | 残ったガソリンが、灯油に混ざる |
見た目は、ほとんど変わらないため、混ざったことに気づきにくい点が、危険です。
においが違う、色が少しオレンジがかる、といった違和感を感じたら、ストーブには入れないでください。
ストーブの炎が上がる仕組み
ここまでは、「燃えにくい灯油が燃えてしまう」場面を見てきました。
次は、反対に、「安全に燃やす」仕組みを見てみましょう。
石油ストーブの炎は、次のような流れで、つくられています。
| 順番 | 仕組み |
|---|---|
| 1 | タンクの灯油が、芯の下端に届く |
| 2 | 芯の細かい繊維のすき間を、灯油が毛細管現象で、上へ吸い上げられる |
| 3 | 点火すると、芯の先端が温まり、灯油が蒸気に変わる |
| 4 | 蒸気が、空気中の酸素と混ざって燃え、炎が安定する |
| 5 | 炎の熱で、芯の先からも蒸発が続き、燃焼がつづく |
芯を使うのは、液体の灯油を、安全に、少しずつ蒸気に変えるためです。
液体のままでは火がつきにくい灯油を、芯の先端で、効率よく気化させているわけです。
消火するときは、芯を下げて、蒸気の供給を止めます。
なお、石油ファンヒーターには、芯はなく、灯油を熱して気化させる方式(気化式)が使われています。
方式は違っても、「蒸気になって燃える」という点は、同じです。
変質した灯油は、炎のトラブルを招く
灯油が古くなって変質すると、ストーブの炎にも、不具合が出ます。
製品評価技術基盤機構(NITE)の資料でも、変質した灯油が、芯の先にタール状の残りかすをつくり、芯が下がらなくなったり、消火の位置に戻らなくなったりして、炎が消えない事故につながった例が紹介されています。
灯油は、買ったシーズンのうちに使い切るのが基本です。
前のシーズンの灯油は、使わないようにしましょう。
灯油を「焚きつけ」に使ってはいけない
キャンプや庭の焚き火で、「火をつけやすくするために、灯油をかける」という話を聞くことがあります。
けれど、これは、非常に危険な行為です。
| 行為 | 危険な理由 |
|---|---|
| 燃えている火に、灯油をかける | 炎が急に大きくなる。容器に燃え移ることもある |
| 炭や薪に、灯油をしみこませて、点火する | 蒸気がたまり、一気に炎が広がる |
| 落ち葉やごみを、灯油をかけて燃やす | 火の制御が効かなくなる。法令違反にもなりうる |
しみこんだ灯油は、時間をおいて、蒸気を出し続けます。
点火した瞬間に、予想外の勢いで炎が上がることがあるのです。
灯油は、燃料であって、着火剤ではありません。
火をおこすときは、専用の着火剤を使ってください。
灯油を扱うときの、火災予防の基本
灯油の事故を防ぐため、日ごろから、次の点を守りましょう。
| 場面 | 守ること |
|---|---|
| 給油するとき | ストーブの火を消し、十分に冷めてから給油する |
| 保管するとき | 火気や直射日光から離れた、風通しのよい場所に置く |
| 運ぶとき | フタを確実に閉め、倒れないようにする |
| こぼしたとき | すぐに拭き取り、換気する。拭いた布は火気から離す |
| 静電気 | 給油の前に、金属に触れて、体の静電気を逃がす |
| 古い灯油 | 前のシーズンのものは、使わない |
とくに、給油のときの、火の確認は大切です。
ストーブの火が、消えたように見えても、芯や燃焼筒が熱いことがあります。
火を消したあと、しばらく待ってから、給油してください。
こぼしたときの詳しい対処は、灯油をこぼしたときの対処法でも紹介しています。
万一、火がついてしまったら
灯油に火がついてしまったときは、落ち着いて、次のように動きます。
| 状況 | 行動 |
|---|---|
| 小さな火 | 粉末や泡の消火器を使う。または、ぬらした厚手の布で空気を断つ |
| 火が大きい | 無理に消そうとせず、すぐ避難して、119番に通報する |
| 衣類に火がついた | 地面に倒れて転がり、火を消す |
灯油の火災に、水をかけてはいけません。
灯油は水に浮くため、燃えたまま水の上に広がり、火が拡大するおそれがあります。
灯油の分類や、火災時の考え方は、灯油は第何類の危険物?でも整理しています。
よくある質問
Q1. 灯油に、ライターで火はつきますか?
常温の液体の灯油には、すぐには火がつきにくいです。
ただし、布にしみこんだ状態や、霧状、高温、ガソリンの混入といった条件では、燃えやすくなります。
火を近づけて確かめることは、絶対にやめてください。
Q2. 灯油は、なぜ火がつきにくいのですか?
燃えているのは液体ではなく、蒸気だからです。
灯油は引火点が40℃以上で、常温では、燃える濃度の蒸気が、ほとんど出ていません。
Q3. ストーブでは、どうやって燃えているのですか?
芯が、毛細管現象で灯油を吸い上げ、先端で気化させて燃やしています。
消火のときは、芯を下げて、蒸気の供給を止めます。
Q4. 灯油を焚き火の着火剤に使ってもよいですか?
使ってはいけません。
しみこんだ灯油が、予想外の勢いで燃え上がり、やけどや火災の原因になります。
Q5. 灯油の火災に、水をかけてもよいですか?
かけてはいけません。
灯油は水に浮き、燃えたまま広がるおそれがあります。
粉末や泡の消火器を使い、火が大きいときは避難して119番へ通報してください。
まとめ
灯油の「火のつきやすさ」について、要点を最後に整理します。
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| 燃えるもの | 液体ではなく、蒸気 |
| 常温の灯油 | 引火点が40℃以上のため、火がつきにくい |
| 燃えやすくなる場面 | 布へのしみこみ、霧状、高温、ガソリンの混入 |
| ストーブの炎 | 芯で吸い上げ、先端で気化させて燃やす |
| やってはいけないこと | 焚きつけに使う、火を近づけて確かめる |
| 万一の火災 | 水はかけない。粉末・泡の消火器、大きい火は避難して119番 |
まずは、灯油を保管している場所の近くに、火気やガソリン、燃えやすい物が置かれていないかを、確かめてみませんか。

