「ガソリンが値上がりしているのはわかる。でも、なぜ絆創膏や使い捨て手袋まで値上がりするの?」
そう感じたことはありませんか?
実は、家庭の救急箱に入っている衛生用品の多くは、ガソリンと同じ「原油」から作られた素材でできています。その橋渡し役が「ナフサ」です。
中東地域での地政学的な緊張が高まった2026年、ホルムズ海峡の事実上の封鎖という事態を受け、アジアのナフサ価格が急上昇しています。
ガソリンや灯油の話題は連日報道されていますが、同じナフサを原料とする医療・衛生用品への影響は、意外と知られていません。
この記事では、ナフサとは何か、なぜ医療・衛生用品と深く結びついているのか、そして価格上昇が家庭の日常にどう影響するのかを、わかりやすく解説します。
「値上がりが来る前に、何をどれだけ備えておくべきか」という実践的な判断材料としてもお役立てください。
ナフサとは何か?石油から生まれる化学工業の基礎原料

原油からナフサが作られる仕組み
ナフサとは、原油を蒸留・分離したときに得られる石油製品のひとつです。
透明でガソリンに似た液体で、「粗製ガソリン」とも呼ばれます。
キャンプ好きの方には、ランタンやバーナーの燃料として使われる「ホワイトガソリン」の名称でなじみがあるかもしれません。
原油は精製所で蒸留塔にかけられ、沸点の違いによって複数の成分に分けられます。
軽い成分からガソリン・ナフサ・灯油・軽油・重油の順に分離され、ナフサはその中間あたりに位置します。
| 精製順 | 製品 | 主な用途 |
|---|---|---|
| 軽 | ガソリン | 自動車燃料 |
| ↓ | ナフサ | 石油化学製品の原料 |
| ↓ | 灯油 | 暖房・ジェット燃料 |
| ↓ | 軽油 | ディーゼル車・船舶 |
| 重 | 重油 | 大型船舶・発電 |
日本では、石油化学製品のほとんどがこのナフサを出発点として作られています。
ガソリン・灯油と同じ原油から生まれる以上、原油価格が動けばナフサ価格も連動して動くのは自然なことです。

ナフサが分解されて生まれる「エチレン・プロピレン」とは
ナフサを約850℃の高温で熱分解(クラッキング)すると、エチレン・プロピレン・ブタジエン・ベンゼン・トルエンなどの「石油化学基礎製品」が生成されます。
| 基礎製品 | 生成割合(目安) | 主な用途 |
|---|---|---|
| エチレン | 約22〜25% | ポリエチレン・PET樹脂の原料 |
| プロピレン | 約12〜16% | ポリプロピレンの原料 |
| ブタジエン | 数% | 合成ゴムの原料 |
| ベンゼン | 数% | 合成繊維・接着剤の原料 |
これらの基礎化学品は、さらに加工されてプラスチック・合成ゴム・合成繊維・塗料など、私たちの身の回りにあるほぼすべての工業製品の素材になります。
ナフサは「化学工業の出発点」とも言われており、その価格が動くと、製造業全体に連鎖的な影響が広がります。
医療・衛生用品とナフサの関係

プラスチック製医療器具はナフサ由来
医療の現場で日常的に使われているプラスチック製品の多くは、ナフサ由来のポリプロピレン(PP)やポリエチレン(PE)が原料です。
代表的な例が注射器(シリンジ)です。
注射筒(シリンジ本体)とプランジャー(押し棒)はいずれもポリプロピレン製で、ナフサをクラッキングして得たプロピレンを重合させることで製造されます。
かつてはガラス製が主流でしたが、使い捨てができる・軽量・薬品に強いというプラスチックの特性から、現在は大半がプラスチック製に置き換わっています。
点滴バッグ・カテーテル・採血管・薬品容器なども同様に、ナフサ由来のプラスチックが使われています。
医療機器そのものではなく「容器・包材・チューブ類」の多くがナフサの川下に位置していると考えると、その影響の広さが見えてきます。
医療・衛生分野でナフサ由来プラスチックが使われている主な製品
| 製品 | 主な素材 | ナフサとの関係 |
|---|---|---|
| 使い捨て注射器 | ポリプロピレン(PP) | プロピレン(ナフサ由来)から製造 |
| 点滴バッグ | ポリ塩化ビニル(PVC)・PE | エチレン/塩素(ナフサ由来)から製造 |
| 採血管 | PP・ポリスチレン(PS) | プロピレン/スチレン(ナフサ由来)から製造 |
| 薬品ボトル・容器 | PP・PE・PET | 各種ナフサ由来モノマーから製造 |
| 絆創膏(基材・フィルム) | PE・ポリウレタン | エチレン(ナフサ由来)から製造 |
| 使い捨て手袋(ニトリル) | ニトリルゴム(合成ゴム) | ブタジエン(ナフサ由来)から製造 |
衛生用品(手袋・絆創膏・注射器ケースなど)の原料をたどると
家庭の救急箱でなじみ深い衛生用品も、ほぼすべてがナフサを起点とした素材で作られています。
絆創膏は、皮膚に貼り付く粘着層・通気性を持つ基材・剥離紙の3層構造が一般的です。
このうち基材にはポリエチレンやポリウレタンが使われ、粘着剤にはアクリル系ポリマー(ナフサ由来のアクリロニトリルが原料)が使われているケースが多いです。
使い捨て手袋(ニトリル手袋)は、アクリロニトリルとブタジエンを共重合させた「ニトリルゴム(NBR)」が主素材で、ブタジエンはナフサのクラッキングで得られる副生成物です。
天然ゴムのラテックス手袋に比べてアレルギーリスクが低く、現在の医療・食品・家庭用途の主流となっています。
ガーゼ・不織布マスクの素材はポリプロピレン(PP)の不織布が多く、こちらもナフサ由来です。
綿素材のガーゼは石油由来ではありませんが、衛生用途に多く使われる不織布タイプはナフサと無縁ではありません。
体温計ケース・救急セットのプラスチック収納も、ほぼすべてがポリプロピレンやポリエチレン製で、ナフサの川下製品です。
消毒液・アルコール製品との関係
消毒用エタノールの主成分は「エチルアルコール(エタノール)」です。
エタノールはサトウキビ・トウモロコシなどの植物由来(発酵)で製造されるものと、石油由来のエチレンを水和反応させて得る合成エタノールの2種類があります。
日本市場では発酵由来が多いものの、容器(ボトル・スプレー容器)は例外なくナフサ由来のポリエチレン・ポリプロピレン製です。
消毒液の中身そのものより、「容器」を通じてナフサと結びついていると考えるとわかりやすいでしょう。
中東情勢がナフサ価格を動かす仕組み

産油国の供給量がナフサ価格に直結する理由
ナフサは原油を精製する過程で生産されます。
日本は原油・ナフサともにほぼ全量を輸入に依存しており、特にアジア諸国はナフサを中東産に大きく頼っています。
中東産ナフサの多くは、ホルムズ海峡を通るタンカーによって輸送されます。
この海峡は幅が最も狭い部分で約33kmしかなく、一日あたり数千万バレルの石油が通過する世界最重要の輸送ルートです。
地政学的緊張が高まり、この航路に何らかの支障が生じると、次のような連鎖が起きます。
- 中東からのナフサ輸送量が減少・停滞
- アジア市場でのナフサ供給不足が顕在化
- スポット価格が急上昇
- 石油化学メーカーの原料コストが増加
- エチレン・プロピレン等の基礎化学品の生産コスト上昇
- プラスチック製品・衛生用品の製造コスト増加
「中東の情勢がなぜ絆創膏の値段に関係するのか」という問いへの答えは、この連鎖にあります。

2025〜2026年の価格動向と背景
2026年3月時点、中東地域での地政学的緊張を背景に、アジアのナフサ価格に上昇圧力が強まっています。
日経新聞の報道によると、指標となる東京オープンスペック価格は2026年3月6日に1トン785ドル(中心値)を付けており、日本が輸入するナフサの半分以上を中東に依存していることから、調達への懸念が石油化学業界全体に広がっています。
直近のアジア・ナフサマージン(ナフサの付加価値に関する指標)は、2026年3月初旬に4年ぶりの高水準に達したとの見方もあり、原料コストの上昇が川下の製品価格にじわじわと反映されてくることが見込まれます。
ただし、ナフサ価格は原油と強い連動性を持つため、地政学的緊張が緩和されれば価格が下落に転じる可能性もあります。
現時点での価格水準がそのまま長期化するとは限らない点は、念頭に置いておく必要があります。
ナフサ高騰で家庭の衛生用品は値上がりするのか

製造コスト上昇が末端価格に反映されるまでのタイムラグ
ナフサ価格が上昇しても、翌日すぐに衛生用品の店頭価格が変わるわけではありません。
原料の価格変動が消費者の手元に届くまでには、一定のタイムラグが存在します。
一般的な価格転嫁の流れは以下のとおりです。
- 原油・ナフサ価格の上昇(指標価格の変動)
- 国産ナフサ価格への反映(四半期ごとの価格改定が多い)
- エチレン・プロピレン等の基礎化学品の値上がり
- プラスチック樹脂(ポリエチレン・ポリプロピレン等)の値上がり
- 製品メーカーの製造コスト増加
- 卸・小売価格への転嫁(通常1〜3か月程度のラグ)
- 消費者の購入価格に反映
この一連の流れには、原油価格が動いてから店頭に影響が出るまで1〜3か月程度かかるのが一般的です。
ただし、価格高騰が長期化した場合や、供給逼迫の局面では転嫁スピードが速まることもあります。
過去の事例から見る価格転嫁のパターン
過去にナフサ価格が大きく動いた局面を振り返ると、衛生用品への価格影響のパターンが見えてきます。
2022年上半期のケースは参考になります。
ウクライナ危機と円安が重なり、国産ナフサ価格は2021年4〜6月期に前四半期比で大幅に上昇し、その後も高止まりが続きました。
この時期、プラスチック製品を多用する日用品・衛生用品全般に値上げが波及しました。
価格転嫁には次のような段階的パターンが見られます。
| 段階 | 時期 | 現象 |
|---|---|---|
| 第1段階 | 価格上昇の数週間後 | 大容量品・業務用品から値上がりが始まる |
| 第2段階 | 1〜2か月後 | 送料無料ラインの引き上げ・セール頻度低下 |
| 第3段階 | 2〜3か月後 | 小売価格の改定・内容量の減少(シュリンクフレーション) |
| 第4段階 | 3か月以降 | ドラッグストア・コンビニの棚価格に反映 |
値上がりは「値札が変わる」という形だけでなく、「同じ値段で中身が減る」「まとめ買い特典が消える」という形でじわじわ表れることも多いため、日常的に購入している商品の変化に気づきにくい場合があります。
医療機器・衛生用品メーカーの対応傾向
大手衛生用品メーカーは原料コスト上昇に対して、いくつかの方法で対応する傾向があります。
- 価格改定:一定の原料コスト上昇に達した段階で値上げを実施
- シュリンクフレーション:価格を据え置いたまま内容量を減らす
- 仕様変更:フィルム厚の微調整など、素材使用量の削減
- 詰め替え・大容量へのシフト誘導:製品ラインナップの整理
消費者目線では「値段が変わっていない」ように見えても、実質的な値上げが進んでいる場合があります。
購入時には単価や内容量の変化にも目を向けると、より正確なコスト感覚が持てます。
家庭でできる備えと賢い購買判断

値上がりしやすい衛生用品の特徴を知る
ナフサ価格の影響を受けやすい衛生用品には、共通した特徴があります。
以下のポイントを知っておくと、「今のうちに買っておくべきか」の判断材料になります。
値上がりしやすい製品の特徴
- プラスチック容器・包材の比率が高い
- 使い捨て前提で大量消費される
- 製品1個あたりのプラスチック重量が大きい
具体的に影響が出やすい衛生用品の例
| 製品 | 主なナフサ由来素材 | 影響度の目安 |
|---|---|---|
| 使い捨てニトリル手袋 | ニトリルゴム(NBR) | 高 |
| 使い捨てポリエチレン手袋 | ポリエチレン(PE) | 高 |
| 絆創膏(フィルムタイプ) | ポリエチレン・ポリウレタン | 中〜高 |
| 不織布マスク | ポリプロピレン(PP) | 中 |
| 消毒液ボトル・スプレー容器 | PP・PE | 中 |
| 体温計ケース・救急セット収納 | PP・ABS樹脂 | 低〜中 |
| ガーゼ(綿100%タイプ) | 綿(石油由来ではない) | 低 |
使い捨て手袋は、素材そのものがナフサ由来である上に大量消費されるため、価格転嫁の影響が出やすい製品の代表格です。
逆に、綿素材のガーゼやコットンパフは植物由来のため、ナフサ価格上昇の直接的な影響は小さいといえます。
備蓄するときのコスパ重視の選び方
価格が上昇する前に買い置きを検討する場合、以下のポイントを参考にしてください。
使い捨て手袋は100枚入・200枚入などの大容量タイプが単価を抑えやすく、備蓄にも向いています。ニトリル製・ポリエチレン製どちらも常温保存が可能で、使用期限も比較的長めです。家庭での調理・掃除・軽作業用として使い勝手がよく、衛生意識の高い家庭には常備しておくと安心です。
絆創膏は大容量のアソートセットが経済的です。フィルムタイプと布タイプでは素材が異なるため、用途に応じて選ぶとよいでしょう。防水タイプ(フィルム素材)はナフサ由来プラスチックを多く使用するため、特に価格転嫁の影響を受けやすい傾向があります。
不織布マスクは個包装タイプより大容量の箱タイプが割安です。ポリプロピレン製の不織布を使用しているため、ナフサ価格上昇の影響を受ける素材ではありますが、製品単価が低く価格転嫁の幅も比較的小さい傾向にあります。
消毒用アルコールは詰め替え用を活用することで、容器コストを削減できます。スプレーボトルは別途用意しておき、大容量の詰め替えタイプを購入するのがコスト面では有利です。
備蓄の基本的な考え方
衛生用品の備蓄は「価格高騰対策」だけでなく、「災害・感染症流行への備え」としても有効です。
ただし、過度な買い占めは市場の品不足を招き、本当に必要な人が手に入れられなくなる原因にもなります。
家族構成や普段の使用量を目安に、1〜3か月分程度を目安として考えると現実的です。
| 品目 | 家族4人・1か月の目安 | 備蓄推奨量(3か月分) |
|---|---|---|
| 使い捨て手袋 | 50〜100枚 | 150〜300枚 |
| 絆創膏 | 10〜20枚 | 30〜60枚 |
| マスク | 30〜60枚 | 100〜200枚 |
| 消毒液(ボトル) | 1本(500ml) | 2〜3本 |
よくある質問(FAQ)
Q. ナフサと原油の違いは何ですか?
A. 原油は地中から採掘される天然の石油のことで、そのままでは燃料や化学品として使えません。原油を精製所で加熱・蒸留して分離したもののひとつがナフサです。ガソリン・灯油・軽油・重油も同じく原油から分離された製品で、ナフサはその中間あたりに位置します。
Q. 医療用品の値上がりはいつ頃から始まりますか?
A. ナフサ価格の上昇が衛生用品の店頭価格に反映されるまでには、一般的に1〜3か月程度のタイムラグがあります。ただし、これはあくまで目安であり、価格上昇が急激な場合や長期化する場合は転嫁スピードが早まることもあります。現在(2026年3月時点)のナフサ価格上昇が続いた場合、夏場以降に日用品・衛生用品全般の値上がりが本格化する可能性が指摘されています。
Q. 医療費そのものも上がるのですか?
A. 病院の診療費・処置料などの医療費は、診療報酬制度によって価格が定められており、ナフサ価格の変動が直接反映されるわけではありません。ただし、医療機関が使用するプラスチック製の消耗品・器具のコストは上昇する可能性があります。医療費の変動については、制度改定や政策的判断が絡むため、エネルギー価格だけでは判断できない複雑な要素があります。
Q. ナフサ由来ではない衛生用品はありますか?
A. 綿(コットン)素材のガーゼ・コットンパフ・包帯などは植物由来で、ナフサとは直接関係しません。ただし、これらの製品も包装フィルム(プラスチック)がナフサ由来であることが多く、完全に無関係とはいえません。素材としてはナフサ依存度が低い製品をあえて選ぶなら、綿素材の衛生用品を選ぶのも一案です。
Q. 使い捨て手袋はニトリル製とポリエチレン製のどちらが値上がりしやすいですか?
A. どちらもナフサ由来の素材ですが、使い捨て用途として広く普及しているニトリル手袋は国際的な需要が大きいため、供給不足や原料コスト上昇の影響を受けやすい傾向があります。過去のコロナ禍(2020〜2021年)においても、ニトリル手袋は大幅な価格高騰と品薄が発生しました。家庭用の軽作業目的であれば、比較的安価なポリエチレン手袋を選ぶのも現実的な選択肢です。
まとめ|ナフサ価格と日常生活のつながりを知っておく意義

この記事でお伝えしたポイントを整理します。
- ナフサは原油を精製して得られる透明な液体で、日本の石油化学産業の基礎原料
- ナフサからエチレン・プロピレンなどが作られ、プラスチック・合成ゴム・合成繊維の素材になる
- 注射器・点滴バッグ・絆創膏・使い捨て手袋など、医療・衛生用品の多くはナフサ由来の素材を使用
- 中東での地政学的緊張がナフサの調達ルートに影響し、アジア市場の価格を押し上げる
- 原料価格の上昇が消費者の手元に届くまでには1〜3か月程度のタイムラグがある
- 価格転嫁は「値札が上がる」だけでなく「内容量が減る」「特典がなくなる」という形でも現れる
- 備蓄は1〜3か月分を目安に、大容量・詰め替えタイプを活用するとコスト面で有利
ガソリンや灯油の価格は毎週報道されますが、衛生用品の価格変動は見えにくいものです。
「なぜ今、この製品が値上がりしているのか」を理解しておくだけで、日々の購買行動の質が上がります。
ナフサという言葉を一度知っておくだけで、エネルギー価格の報道が自分ごととして読めるようになるはずですので、ぜひご参考ください。

