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ナフサの「目詰まり」とは何か|政府が在庫ありと言うのに現場に届かない理由を解説

ナフサの統計在庫はあるものの、精製の優先順位や流通の多段構造、在庫の偏在によって中小企業へ十分に届かず、供給が途中で滞る“目詰まり”状態を図解したイメージ
Yuta
記事監修者
現:ガス会社に勤める兼業WEBライター。所持資格はガス開栓作業に必要な高圧ガス販売主任者二種、ガス工事に必要な液化石油ガス設備士、灯油の取り扱いに必要な危険物乙四種、その他ガス関連資格多数と電気工事士などの資格も多数所持。

「政府はナフサの在庫は十分あると言っているのに、なぜ現場では品不足が続くのか?」
——ニュースを見てそんな疑問を感じた方は少なくないはずです。

この「矛盾」を説明するために、経済産業省・赤沢亮正大臣が繰り返し使っている言葉があります。
それが「流通の目詰まり」です。

この記事では、「ナフサの目詰まり」とは具体的にどういう現象なのか、なぜ起きているのか、そして私たちの生活にどんな影響をもたらすのかを、できるだけわかりやすく解説します。


目次

「目詰まり」とはどういう意味か

「目詰まり」は本来、フィルターや配管の穴が細かいゴミで塞がれて流れが止まることを指す言葉です。
ナフサの文脈でこの言葉が使われる場合、「原料としてのナフサは物理的に日本国内に存在しているのに、それが必要な工場・企業に届かない状態」を意味します。

経産省の公式な説明は「量は確保できている、問題は流通の偏りだ」というものです。
しかし現場から届く声は、それとは大きく異なります。

帝国データバンクの調査によると、主要な石化メーカー52社からつながるナフサ由来の石化製品サプライチェーンには、2次取引の段階だけで4万6,000社以上が存在しており、全製造業の約3割が調達リスクに直面する可能性があるとされています。

つまり「量がある」と「現場に届く」は、まったく別の問題なのです。


なぜ目詰まりが起きているのか

石油化学コンビナートの大型タンクが空に近づき、ナフサ不足による供給停滞を表現したイメージイラスト

そもそものきっかけ:中東情勢の緊迫化

2026年に入り、中東情勢の緊迫化によりホルムズ海峡の通航が不安定な状況になりました。
日本がナフサを調達する主なルートは中東を経由するものが多く、この影響がサプライチェーン全体に波及しました。

ここで重要なのは、「日本にナフサの備蓄がゼロになった」わけではないという点です。
政府が繰り返し「量は確保している」と説明するのはそのためです。
では、なぜ現場に届かないのか。その理由は複数あります。


目詰まりの構造① 精製の問題

石油精製所では、原油を蒸留してガソリン・軽油・ナフサ・重油などさまざまな製品に分けます。
この割合は、一定の範囲でコントロールできます。

2026年の状況では、政府が家庭向けガソリン価格の抑制を優先したため、製油所はガソリン生産を優先する設定に傾きました。
その結果、ナフサの収率(生産割合)が前年比で4〜5%程度低下したとされています。

さらに、中東からの輸入が制約されたことで備蓄原油の質が変わり(重質化)、ライトナフサの生産量が制約されるという事態も重なりました。


目詰まりの構造② 経済的インセンティブのゆがみ

政府はガソリン価格の高騰を抑えるため、燃料油に対しては補助金を投入してきました。
一方で、同じ石油製品であるナフサには補助金がありません。

この結果、製油所にとっては「ガソリンを多く作ったほうが儲かる、ナフサは作るほど損になる」という経済的な構造が生まれました。
製油所が合理的に判断すれば、ナフサの生産を抑制するのは当然の行動です。

スクロールできます
製品政府補助製油所の生産インセンティブ
ガソリンあり(価格抑制補助)高い
軽油あり(一部)高い
ナフサなし低い

目詰まりの構造③ 流通・在庫の偏在

備蓄として計上されているナフサが「すべての企業が自由に使える状態」にあるわけではありません。
実際には、大手石化メーカーが自社向けに確保している在庫、特定の長期契約先にのみ供給される在庫など、さまざまな形で偏在しています。

大手メーカーは交渉力があり、自社契約枠の中で原料を確保できます。
しかし中小・零細の製造業者は、スポット市場(その場その場での取引)で調達するしかなく、そこでは価格が跳ね上がるか、そもそも在庫自体が存在しません。

こうした「在庫の所在の偏り」こそが、政府が言う「流通の目詰まり」の正体の一つです。


目詰まりの構造④ サプライチェーンの多段構造

石油化学の流通は、川上(製油所・石化メーカー)→ 問屋・商社 → 二次加工メーカー → 最終製品メーカー という多段階の構造を持っています。

川上でわずかな供給減が起きると、それが多段階を通じて増幅されます。
各段階で「念のため多めに確保しておこう」という行動が連鎖すると、川下に届く量は思った以上に急激に細ります。これは「ブルウィップ効果(bullwhip effect)」と呼ばれる在庫管理の概念で、生産量の変動が下流に向かうほど増幅される現象です。

製油所(生産わずか減)
  ↓
石化メーカー(念のため在庫積み増し)
  ↓
問屋・商社(念のため多めに確保)
  ↓
中小製造業(ほとんど入手できない)

この構造のために、川上の「わずかな供給減」が川下では「深刻な品不足」として体感されます。


「目詰まり」が生活に与える影響

ナフサ不足の影響で商品が手に入りにくくなり、空になった棚の前で困惑する女性のイメージイラスト

身近な製品への波及

ナフサは「石油化学のコメ」とも呼ばれ、日用品の幅広い原料です。
流通の目詰まりは、最終的には私たちが日常的に使う製品の価格上昇や品薄という形で現れます。

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製品カテゴリ具体例目詰まりの影響
容器・包装ポリ袋、ラップ、食品トレー値上げ・一時的品薄
日用品ごみ袋、シャンプーボトル値上げ・規格変更
塗料・建材外壁塗料、シンナー、コーキング材品薄・工期遅延
衣料・雑貨ポリエステル繊維、人工皮革値上げ
印刷・食品食品パッケージの印刷インク白黒化・簡素化
医療・衛生医療用手袋、注射器品薄・価格上昇

なぜ「ものが買えない」状態になるのか

製品の価格が上がるだけでなく、一時的に店頭から姿を消す現象も起きています。
これは目詰まりにより、製品を作るための原料が突然届かなくなった製造業者が、生産を止めざるを得ない状況に追い込まれているためです。

特にシンナーなど塗装資材は急激な品薄と価格高騰が報告されており、日本塗装工業会が国土交通省に供給確保を要望するまでの事態になっています。


政府の対応と現場の乖離

経産省は「流通の目詰まりが生じている場合は連絡があればただちに解消する」と説明しています。
一方で、現場の企業からは「連絡しても解消されない」という声も聞かれます。

この乖離が生じる理由のひとつは、目詰まりの構造が単純ではないからです。
「誰かが意図的に隠しているナフサがある」という問題ではなく、精製の優先順位・補助金の設計・流通の多段階構造・在庫の偏在という、複数の要因が重なっています。
これらをすぐにすべて解消することは容易ではありません。

帝国データバンクは「短期的な解決は難航することが予想される」と評価しており、政府発表と現場感覚の乖離はしばらく続く可能性があります。


目詰まりが解消されるための条件

ナフサの流通目詰まりが解消されるには、以下のような条件が揃う必要があると考えられます。

条件① 中東情勢の安定化

根本的な原因のひとつが中東情勢に由来するため、地域の安定化・ホルムズ海峡通航の正常化が前提となります。
ただし、これは日本が単独で解決できる問題ではありません。

条件② 代替調達ルートの確立

中東以外からのナフサ・原油調達ルートを広げることで、特定ルートへの依存を下げることができます。
政府も代替調達の促進を進めていますが、実際の流通量に反映されるまでには時間がかかります。

条件③ 精製設定・補助金の見直し

ガソリン優先の精製設定とナフサを不利にしている補助金の設計を見直し、ナフサ生産のインセンティブを回復させることが必要です。

条件④ サプライチェーン全体の在庫正常化

川上から川下まで、各段階で積み上がった「過剰在庫」と「品不足」の偏りが解消されるには、一定の時間がかかります。
供給が安定化し始めても、流通全体が正常化するまでには数か月単位のタイムラグが見込まれます。


まとめ:「量はある」と「現場に届く」は別の問題

石油精製プラントから流れるナフサが配管の途中で黒い塊によって詰まり、一部の工場には供給される一方で、多くの中小工場には届かなくなっている様子を描いたイラス

「ナフサの目詰まり」とは、物理的な在庫は存在しているにもかかわらず、複数の構造的要因によって必要な場所に届かない状態のことです。

政府が「在庫は確保できている」と説明するのは事実の一側面ですが、製油所の生産優先順位、補助金設計の歪み、流通の多段構造、在庫の偏在——これらが重なることで、現場では深刻な品不足が生じています。

この問題が私たちの生活に与える影響は、ごみ袋・食品包装・塗料・医療用品など幅広い製品にわたります。
状況は日々変化していますが、目詰まりの構造を正確に理解しておくことで、価格変動や品薄への備えに役立てることができるでしょう。


よくある質問(FAQ)

Q. 政府が「ナフサは十分確保している」と言うのに、なぜ品不足になるのですか?

A. 国全体としての統計在庫と、個々の中小企業が実際に調達できる量は別物です。精製の優先順位・補助金の設計・流通の多段構造・在庫の偏在といった要因が重なり、「量はあっても届かない」という状態(目詰まり)が生じています。

Q. 「目詰まり」という言葉は誰が使い始めたのですか?

A. 経済産業省・赤沢亮正大臣が会見などで「流通の目詰まり」「供給の偏り」という言葉で現状を説明したことで広まりました。ナフサに固有の専門用語ではなく、流通・物流分野で一般的に使われる表現を転用したものです。

Q. 目詰まりの影響を受けやすいのはどんな製品ですか?

A. 石油化学原料への依存度が高く、代替素材への切り替えが難しい製品ほど影響を受けやすい傾向があります。医療用プラスチック(手袋・注射器)、塗料・シンナー、食品包装材、ごみ袋などが特に影響を受けやすいとされています。

Q. いつ頃、目詰まりは解消されますか?

A. 中東情勢の安定化、代替調達ルートの確立、精製設定の見直し、流通全体の在庫正常化と複数の条件が必要です。帝国データバンクは「短期的な解決は難航する」と評価しており、状況が改善し始めてもサプライチェーン全体の正常化にはさらに数か月かかる可能性があります。

Q. 一般家庭はどう対応すればよいですか?

A. 急激な買い占めは物流の目詰まりをさらに悪化させる可能性があります。ごみ袋・ラップ・ウェットティッシュなど消耗品は1〜2か月分を目安に計画的に補充しておくことが合理的です。

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この記事を書いた人

「暮らしの設備ガイド」は、給湯器・ストーブ・換気設備など、
家庭の安心と快適を支える“住まいの設備”に関する専門メディアです。

現在もガス業界で設備施工・保守に携わるYuta(ガス関連資格保有者)が監修し、一般家庭向けのガス機器・暖房設備・給湯器交換の実務経験をもとに、現場の知識に基づいた、正確で実用的な情報を発信しています。

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